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Yuki Nekomiya

Chocobo [Mana]

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小説: 胡蝶は宵闇/払暁に向かって飛ぶ 1話

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紅蓮4.3がっつりネタバレ満載です。




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 『我、夢に胡蝶となるか。胡蝶、夢に我となるか』。

 ――ならば、これは。
 これは逃れようのない現(うつつ)か。あるいは誰かの見る夢なのか。

 それとも。


* * *


 まるで夢のようだと、そう思った。
「ともに、来ぬか?」
 声と共にゆっくりと差し出されたのは、大きくて分厚い手だった。村の人たちの誰とも違う、大きくてごつごつとした手。あの手がいつもの養父様(ととさま)のようにわたしに振り下ろされたなら、きっとわたしは熟れすぎた柿よりも簡単に潰れてしまうだろう。機嫌を損ねたらと思うと、どう答えるのが正解かわからなくて、ただただ立ち竦む。
 男の人の手は、わたしにとっては「怖いもの」だった。わたしを打(ぶ)つ手。振り払う手。突き放す手。男の人だけじゃない、他人の手がわたしに与えるのは、痛みと拒絶だけだったから。
「おぬしを養父母から引き離すのが、正しいかどうかはわしにはわからぬ。だが、このままおぬしを棄ておくにも、忍びないのだ」
 大きな手に相応しい、山のように大きな体をわざわざ小さくかがめて、その人は静かに語る。きっと本当は直接声をかけることすら憚れるぐらいに、身分の高い方なのだろう。わたしのような薄汚れた子供に対しても、目線がしっかり合うように膝をついた、そのせいで裾が汚れてしまった着物は、今まで見たことがない綺麗なものだったから。
「……どう、して……?」
 ぽつりと思わず尋ね返して、わたしは反射的に体を強ばらせた。
 やってしまった。怒鳴られて、きっと打たれてしまう。だって今までそうだった、そうじゃないことなんてなかった。理由を尋ねたり聞き返したりなんていうのはわたしのような人間がやっていいことじゃなくって、わたしに許されているのはただ『はい』と答えて動くことだけだ。
 なのに。
「さぁて、なぜであろうなぁ」
 わたしの言葉に怒鳴るでもなく、その人はのんびりと苦笑した。困ったような、本当は困っていないような、なんとも言えない声音。不見転岩場を切り出したような、いかめしくて怖い顔つきだと思っていたけれども、ほんの少し表情が緩んだだけで、不思議な安心感とほっとするような雰囲気に包まれる。
 ……初めてだった。村の人はみんな、わたしがまるで見えないかのように無視していたから。初めて、わたしをちゃんと見て、わたしとお話をしてくれる人。
「わしとて、すべてを救えるとは思っておらん。誰も彼もに手を差し伸べるほど、お人よしでもない。ただ……そうさなぁ」
 差し出した手を引っ込めることもせずに。わたしが選んでいいのだよ、と言ってくれているような気がした。
 昨日と変わらない今日、今日と変わらない明日か。それとも……この手を取って、今日とは違う明日を迎えるのか。
 緊張と恐怖で、心の臓がきゅっと冷えて縮こまるような気がした。だって、どうしようもなく怖い。今までとは違う明日が、今日より良い保証なんてどこにもない。今まで誰も助けてなんてくれなかった、それが当たり前だった。この人の優しさが本当のものだなんて、そんなことがあり得るはずがない。突き飛ばすために手を差し出したのだ、と言われたほうが、まだ信じられる。
 けれど。それでも、振り払えないのは。
「おぬしとは『縁(えにし)』があるような気がした。……だから。おぬしさえ良ければ、わしと共に来ぬか?」
「……っ」
 優しく重ねられた言葉に、じわりと涙がにじむ。
 だって、本当は、ずっと助けてほしかった。――伸ばした手を何度となく振り払われ、いつしか手を伸ばすことさえ怖くなっても。
 当たり前の人として接してほしかった。――罵倒と打擲と嘲笑しか与えられない日々に、自分の中の何かが絞め殺され続けているような気がして怖かった。
 ずっとずっと願っていた。叶えられないと知っていて、諦めたふりをして、それでも心の奥底では諦めきれなかった。
 伸ばされた手に、そろりと触れる。大きな掌はがっしりとして皮が固くて、うっすらと傷跡がいくつも残っていた。きっと何かを懸命に成そうとしてきた人なのだろう、身分だけじゃなくて、もっと本当に心底から立派な人なのだ。
「……は、い……お願い、します……っ」
 俯いて、言葉を絞り出したのが限界だった。堰を切った感情は、あふれ出してしまうとどうしようもなくて。手に縋りついて、みっともなくぼろぼろと涙をこぼすわたしを落ち着かせるように、宥めるように、その人はわたしの肩をもう片方の手でゆっくりと撫でてくれた。
「……そういえば、まだ名乗っておらんかったな。わしの名はゴウセツという、おぬしは?」
「わ、わたし、は……っ」
 こんな立派な人が、わたしみたいな人間を救ってくれるだなんて、まるで夢物語のようで信じられないけれども。
 ――もし信じて後で裏切られるのだとしても、この人ならばいいと、そう思った。
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