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Yuki Nekomiya

Chocobo (Mana)

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小話: 騒々しくも愛しき日々よ 2話

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「……海豚(いるか)?」
「そう、海豚」
「……って、なに?」
「なにって……えぇと、動物の、名前? 海に棲んでるって聞いたことあるよ!」
 素朴な疑問を投げかけたツァスに、エ・ミルンがざっくり言い切った。よくわからないまま、そんなものかとツァスが頷く。
 エ・ミルンの先導で二人が向かったのは、溺れた海豚亭という酒場だった。なんでも冒険者ご用達ということで、エ・ミルンもリムサ・ロミンサに来るたびここで食事をとるのだという。
「あ、うま」
「でしょでしょー!?」
 エ・ミルンお勧めだという、淡白な白身の魚と厚めにざっくり切った芋を油でからりと揚げた料理を、おそるおそる一口かじる。思わずほろり零れ落ちた言葉に、エ・ミルンが我が事のように薄い胸を張った。
 エオルゼア共通語の読み書きがだいぶ怪しいツァスに代わって、てきぱきとエ・ミルンが注文してくれた料理はどれも美味しいものだった。
 魚のバター蒸し焼きに始まり、近海で取れた新鮮な魚を使った料理の数々から、豆と栗の煮込み料理などなど。一目見て味の見当がつくもの、素材は知っているが見た目の得体が知れないもの、果てはまったく見たことも聞いたこともない素材を使っているらしい、よくわからない料理まで。もっとも、料理の味自体は馴染みこそなくても、はっきりと「美味い」とわかるものばかりで、試しとばかりに一口食べた後はツァスも遠慮なく手を伸ばした。
(『異国』なんだなぁ……)
 ぼんやりと、そう思う。
 大げさな身振り手振りで今までの冒険譚を語るエ・ミルンの言葉こそ聞きなれたものだけれども、そこに交じる周囲の喧騒は、聞き取れないからか余計にどこか音楽的で。運ばれる料理や酒も、ぽっかり開いた通路から吹き込んでくる潮風も、そこからうっすらと遠く見える景色も、何もかもが初めてで物珍しいものだ。
 そこに、一抹の寂しさと心細さはある。けれども、それだけではない。
『冒険者はただの傭兵や無頼者とは違う。未知を正しく畏れ、好奇心と喜びとを灯火として挑み、成功も失敗も楽しみの糧とすることができる者たちだ』
 かつて西州(エオルゼア)まで旅をしたことがあるという、風変わりな伯父の言葉を思い出す。この場にちらほらと散見される他の客たちや、目の前のエ・ミルンもまた『冒険者』なのだろう。ならば、自分は。
 ――自分、も。
「ツァス、聞いてる?」
「あ、うん。聞いてる。明日、家にお邪魔する話だろ?」
 意識が飛んでいることを鋭く察知したらしい、エ・ミルンにきりりと睨まれて、ツァスは誤魔化すように笑った。
 エ・ミルンやその仲間たちが住んでいる家というのは、小大陸のほうにあるらしい。『近年の情勢に鑑みて』西州の三都市は冒険者を優遇する政策を打ち出しているらしく、エ・ミルンたちが住まいがある冒険者専用居住区もその一環なのだとか。
 そうした大人の事情はどうあれ、ツァスはエ・ミルンと仲間たちの厚意により、そこで世話になる予定となっている。一般的な『新参の冒険者』が、冒険者ギルド運営の宿での仮住まいを余儀なくされることを考えれば、最初から地に足つけた生活ができるツァスはだいぶ恵まれていると言っていいだろう。エ・ミルンはもとより、受け入れてくれるという彼女の仲間たちには、感謝しかない。
 問題がひとつあるとすれば、その『家』がここより更に船で移動した先にある、ということだろう。すでに西州で活動しているエ・ミルンやほかの冒険者たちは移動魔法(テレポ)でひょいとひとっとびできるのだが、到着したばかりのツァスはそうもいかない。
 エ・ミルンと別れた後は、まずはリムサ・ロミンサで一泊。翌朝、船で小大陸に渡ったあと、乗り合いチョコボキャリッジで居住区最寄りの停留所まで移動、あとは徒歩で向かう予定だ。「朝出発したら、夕方までには着くはず!」とエ・ミルンは適当な太鼓判を押してくれたのだが、そのエ・ミルンはチョコボキャリッジを利用したことはないらしく、本当に夕方ごろ辿り着けるのかは怪しいところがある。
 そもそも、頼りとなるのは、エ・ミルンお手製のざっくりとした……よく言えばシンプル、率直に言えば雑な地図だけだ。右も左もわからぬ異邦の地で、頼れる縁(よすが)はこの地図一枚きり、おまけにツァスのエオルゼア共通語はぎりぎり会話できる程度、ときている。
「やっぱり、わたしも同行しようか? 道案内、あったほうがいいでしょ?」
「んー……」
 心配性でお節介焼きなところがあるエ・ミルンとしては、何かと不慣れな弟分が心配なのだろう。ツァスにしても、自身の道中の安全と手間とを考えれば、エ・ミルンに頼ってしまったほうが気楽ではある。
 けれど。
「……大丈夫」
 自分に言い聞かせるようにして、ツァスはへらりと笑ってみせた。
「まぁ、確かにミルンの心配もわかるし、僕もちょっとは不安だけど」
 それでも、と言葉を重ねるのは、希望と見栄と、それから少しばかりの意地だ。
「一応、これから『冒険者』になるんだし? これぐらい、楽しめるようにならないとね」
 エ・ミルンの語る『冒険』は、いつだってきらきらと輝いている。もちろん、語られない多くの挫折の影もあるのだろうけれども、多くの困難に希望をもって立ち向かう彼女たちの姿はひどく憧れで……だからこそ、ツァスは今ここに居るのだ。足元にも及ばないだろうけれども、それでも少しばかりの気概ぐらいならば、せめて真似ることはできるだろうし、そうありたいと願っている。
「……そっか。そうだよね。がんばってね、新米冒険者くん?」
「ん。まぁ、『先輩』のご期待に添えれるかどうかはわかんないけど」
 それでも、まずはやってみないことには、何も始まらないから。
 そう言い切って、ツァスはぬるくなり始めたエールを一息に飲み干した。



 そして、翌日。
 ようやく目的地にたどり着いたツァスは、おぉ、と短く感嘆の声を上げた。
 リムサ・ロミンサから船に乗ってベスパーベイへ。船を降りたら、乗り合いチョコボキャリッジで、ホライズンを経由してスコーピオン交易所まで。そこからこの街までは徒歩で。
 懸念だったチョコボキャリッジの歩みは意外とエ・ミルンの想定通りで、またその道中も魔物の襲撃などはなく、安全な旅路だった。それなりに主要な街道として整備されているのだろう、クガネからリムサ・ロミンサまでの海路の悪さに比べれば、むしろ快適とさえ言えるほどだった。途中休憩をはさんだとはいえ、ずっと同じ姿勢でいたため体の節々は少し痛むし、何よりも固い座席に座りっぱなしで尻が割れそうではあったけれども、それも『旅の良い経験』の範疇だ。
「ここが……」
 ぐっと伸び上がるようにして、ツァスはぐるりと視線を巡らせる。
 切り立った崖と遥か眼下を流れる川にぽっかりと囲まれた土地には、多くの建物が並んでいる。川のおかげだろう、程よい湿り気がひんやりと空気を冷やしており、過ごしやすそうな気温となっている。道中の、燻した砂のような、乾いて埃っぽい匂いとは大違いだ。
 冒険者専用の居住区と聞いたので、道端に酒瓶が転がっていたり倒壊寸前の建物がひしめいていたりしたらどうしよう、と勝手に心配していたのだが、予想もしなかった美しい街並みだった。それぞれ所有者の趣味趣向を反映しているらしく、建物の色や形こそ様々だが、整理された区画の中にそれぞれきちんと収まっているせいか、それほど乱雑な印象はない。中央に大きくそびえたつ風車が、緩やかな風を受けて静かに回っているのが印象的だった。
 ゴブレットビュート。砂都ウルダハが管理している、冒険者専用居住区。そして、今日からツァスがお世話になる街でもある。
「こっちこっち!」
 階段を上っておりて、何度か道を間違えつつもようやく目標とする家を視界に収めたツァスは、門柱の前にたたずむ二人の影にほっと安堵の息をついた。
 ぶんぶんと大きく手を振るエ・ミルンのもとに足早に近寄ると、ツァスは軽く頭を下げる。
「悪い、待たせた」
「迷わずに来れた?」
「実はちょっと迷った。家の前に居てくれて良かったよ、目印になったから助かった」
「そっか。……あっ、えっとね!」
 にぱっと笑って、エ・ミルンが横に立つ男を見上げる。つられて、ツァスの視線もそちらへと向かう。
 ルガディン族の大柄な男だった。身長はツァスとそれほど変わらないぐらいだろうが、身体の厚みはだいぶ違う。一見、悠然とした立ち姿だが、どこか洗練されていて隙がないところから、ただ単に『種族』として大柄なだけではない、きちんと鍛えてきているのがなんとはなしに窺えた。万が一、ツァスが余計な動きを見せれば、即座に対応することもできるのだろう、そんな確信がある。
『ハルドクールさん、こっちがツァス、です! わたしの……友人?』
『はじめまして、ハルドクールです。よろしく』
 エ・ミルンの、エオルゼア共通語による紹介に応じて、男が鷹揚にうなずく。ゆったりとした落ち着いた声音には、どこか人を安心させるような深い響きがあった。まんまるい眼鏡の奥の双眸は穏やかで、思慮深い知性と篤実な性質が『見える』。ゆっくりと丁寧な喋り方は、それが普段通りなのか、あるいはエオルゼア共通語に不慣れなツァスを気遣ってのことか。外見から年齢はわからないが、声と喋り方からおそらくツァスよりは少しばかり年上だろうと推測できた。
「ツァス、この人がハルドクールさん。えーとね、わたしの所属してるフリーカンパニーのリーダーでね、おうちの大家さんみたいな感じで……あっ、フリーカンパニーって知ってる?」
「あとで聞く」
 放っておくと長々と説明を始めそうなエ・ミルンの言葉をさらりと流して、エオルゼア共通語での挨拶の言葉を、なんとか脳裏で組み立てる。紹介してくれたエ・ミルンの面目を立てるためにも、これから世話になる人相手にあまりみっともないところは晒したくない。
 日ごろ、どちらかというと猫背ぎみの背筋を今だけはきちんと伸ばして、ハルドクールをまっすぐに見つめる。右手を開いて左胸の上に添え、わずかに頭を下げる。ツァスの知る限り、最も正式な礼だ。
 同じ文化圏に属しているわけではないから、伝わるかはわからないが、だからといって無礼を働いて良いわけでもない。相手が気づかないとしても、己の行いを己が知る限り、『誠意を欠いた』という厳然たる事実はそこに残る。
 誠意には誠意を。侮蔑には報復を。……良き友人には、敬意を。
『ツァス、と、言う。よろしく、お願いします? ミルンの……』
 自分とエ・ミルンとの間柄をなんと説明すべきか、ツァスは一瞬迷った。知人、友人、親友。あるいは、古馴染みと言うべきか。ツァスにとってエ・ミルンは恩人とも呼ぶべき存在だが、エ・ミルンにとって自分がどういう立ち位置なのか。そもそも、適切な言葉があったとしても、それをエオルゼア共通語でなんと言うのかはわからない。とはいえ、口ごもっていても失礼にあたる。
 ぱっと思いついた言葉を、ツァスは正直に口に出した。
『……子分だ』
「え、なんでそこで子分なの!? せめて弟分! というか、わたし『友人』って紹介したのに」
「ごめん、ついうっかり本音が」
「もっとひどい!」
 エ・ミルンの抗議を慣れた様子で受け流したツァスに、ハルドクールが苦笑を浮かべた。ツァスたちが交わす言葉はエオルゼア共通語ではないため、言葉の意味自体は分からないだろうが、響きでじゃれあっていることは伝わったのだろう。門扉に手をかけて押し開き、二人を緩く手招きする。
『まぁ、立ち話もなんだ。せめて中に入ってからにしなさい』
『はーい!』
『……ツァス君、といったね。君のことは、エ・ミルンから聞いたよ』
『はい』
 どんな話をしたのか、非常に気になるところではあるけれども、疑問を押し隠してツァスは短くうなずいた。せめて、みっともないところは省いてくれていればいいのだが、話し手のことを考えると、あまり期待はできない。一応、ハルドクールのツァスへの対応はひどく穏当なものなので、人間としての尊厳は最低限守ってくれているらしいとは思うのだけれども。
『エ・ミルンが信頼する友人なら、俺たちにとっても親しき友だ。だから、遠慮せず、第二の我が家だと思って過ごしてくれ』
『はい』
『それから、改めて。……ようこそ、エオルゼアへ。君の『冒険』が良きものとなるよう、助力は惜しまないつもりだ』
 ともに暮らすと似てくるのか。あるいは、そもそもが似たもの同士なのか。ハルドクール自身に自覚はないだろうし、そんな大層なことを言ったつもりもないのだろう。
 それでも、昨日エ・ミルンと再会したときと似たような言葉をかけられて、ツァスの表情に自然な笑みが浮かぶ。
「ありがとう」
 ここから、新しい日々を始めよう。




+ + + + +

予想外に長くなりました。
あと、Mirage Familyとの温度差がひどくて、書いてる本人も風邪ひきそうです。
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