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Gillis Skogar

The Red

Anima [Mana]

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失われた詩・第一節

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そう、一つ思い出話をしよう。
未だ戻らぬ記憶に悩む自分にとって、
覚えている過去を振り返ることは重要な刺激になると思うからだ。

僕こと、リ・アリス・ブランズは、霊災孤児である。
いや、それは正確ではないのかもしれない。
"第七霊災"と呼ばれる時期以前の記憶…そのほとんどが残っていない。

どうやら『リ族』だったらしい、と言うことだけは断片的な記憶から推察できたが、
自分の名前さえ思い出せない状態だった。

残っている一番最初の記憶は、燃え上がる大地、降り注ぐ星の破片、巨大な龍――
……それより後もほとんど覚えていない。
騒乱と混乱の中、襤褸布を纏い、やっとの思いで逃げ延びたウルダハで、貧民に紛れて暮らす日々が続いた。
そう長い期間ではなかったつもりだったが、どうやらその間に5年も経ってしまっていたらしい。
ただ来る日来る日を生きるのに必死で、必死で、疲れていた。



・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・

そんな毎日を繰り返し、飽きるほど繰り返した頃……この生活は突如終わりを告げた。
食べ物にどうしても困って、旅商の荷物に何とか紛れ込み辿り着いた、
ウルダハのマーケットでのことだ。

僕が店先に並んでいたフラットブレッドを懐に隠したのを、その男は見逃さなかった。
折れてしまいそうな細身の長身……そのエレゼン族の男は、僕の手を掴み、

「この金を持っていけ。そして、きちんとそのパンを買うといい」

と、100ギル金貨を手に握らせてくれた。
あまりに突然のことで呆然とする僕を、早く行け、と急かす声に怒りはない。
ただ穏やかで、優しささえ含んだ声だった。

この金貨1枚があれば、パンと水だけで過ごす質素な生活なら4、5日は生きていける。
仮にこのフラットブレッドに、ステーキと暖かいスープ、
食後の甘い飲み物を付けたってお釣りがくる額だ。
大したことのない額に見えても、僕たちにはそれだけの価値がある。
このお金も、パンも。両方持ち逃げすることだって、躊躇なく行えてしまうような。

……でも、僕はそうしなかった。 できなかった。
彼は店へ向かう僕についてこなかったにも係わらず、だ。
僕は100ギル硬貨を店員に渡し、盗んでいなかったのように通常通り買い物を済ませた。

「そのまま居なくなってたら、もう少しでお前さんを捕まえてもらうところだったよ──」

去り際に、店先に立つ女性から小さく耳打ちされた言葉だった。
さすがにウルダハで店をやってるだけあって、彼女も強かだ。
その言葉が恥ずかしくて、…情けなくて。 僕はばつが悪い顔で店を去り、
90ギルと少し残ったお釣りを彼に返そうかと思った時、通りに彼の姿はもう無い。

彼の姿を暫く探し回ったが見つからなかった。
彼ほど身なりの整った人間は、ウルダハではなおの事目立つはずだ。
ララフェル族でない以上、王族関係者というわけでもなさそうなのだが…
同じ場所で1時間ほど待ってみても、彼が再び現れることはない。
「暇な金持ちもいるものだ」…
その時はそう思い、しぶしぶとまともな食事にありついたのであった。

・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・

それが彼…(のちに知ったのだが)「光の戦士」こと、
リシャーロワ・オーバンと僕の最初の出会いだった。

…彼とはそう日を置かずに、ウルダハの外で再び会うことが出来た。
あの時の釣りだ、と渡そうとした硬貨に、彼はただ指を振って受け取らなかった。
そして彼はこう言ったのだ。
「リムサ・ロミンサに俺の借りている部屋がある。
今はほとんど使っていないから、そこで寝泊まりするつもりはないか?」と…。

──第二節へ続く──

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