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Kiba

Lux Xiv

Carbuncle [Elemental]

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無言の冒険者 言葉を取り戻す

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ーーこの世界には、ビギナーチャンネルという、初心者掲示板があって、ときどきそこに、
「初見です。よろしくお願いします」
「おつかれさまでした。今日は楽しかったです」
「どんまいです」
なんて、言葉が書き込まれることがある。あんまりそこに相応しくない言葉だけれど、僕がそれを疑問に思ったのは冒険者に成り立てのうちだけで、いつしかそんなことは気にしなくなっていったーー


僕はたぶん冒険者ってやつに向いていない。
何しろ重い鎧を着ての歩行がおぼつかない…。
かれこれ5年近く、休止をはさみながらこの稼業を続けてきたけれど、一向に強くなった実感が湧かない。でも景色を眺めたり、音楽を聴いたりするのは好きだから、なんだかんだ今日もガチガチに装備を固めて冒険に出かける。
そんな僕の心がけていることは、挨拶。
せめてパーティを組んでくれた方に嫌な思いはさせたくないから、

「よろしくお願いします」
「おつかれさまでした」

当たり前のことだけれど、きっちりと挨拶をするようにしている。
このところは加えて、

「ドンマイです! 気にしないでください」

がレパートリーに入った。
僕の頭の上には花が咲いている。いつまでも初心者ってわけにはいかない。

今日も僕はこのところの日課である、レベリングダンジョンに行ってきた。冒険者稼業の良いところは、自分みたいな独りぼっちでも、冒険者ギルドによってパーティを組んでもらえるところだと思う。

「よろしくお願いします」

僕はパーティのみんなに挨拶をした。歴戦の強者と思しきお二人が、口を動かさずに挨拶を返してくださった。間違ってなければマクロというらしい。
そしてーー
ーー頭の上に若葉をつけた新米冒険者と思しき方が、ピョンピョンと飛び跳ねた。
彼は無言だった。たぶん緊張していて挨拶を忘れてしまったのだろう。

その日の冒険も、何ごともなくすんなりと終わった。僕は少し道に迷ったけれど、途中でベテラン冒険者さんが先頭に立ってくれたので、その後ろをついて回った。新米冒険者さんの手前、ちょっぴりバツが悪かったけれど、迷惑をかけるよりずっとマシだ。

僕はダンジョンを出ると、いつものように真っ直ぐ街に帰った。冒険者ギルドに今日の成果を報告して帰路に着く、その途中でーー本当に偶然、魔がさすように僕の視界に、その掲示板が入った。
ビギナーチャンネルだ。
異国の言葉に混じって、僕にも読める字ではっきりとこう書いてあった。

「初心者です。回復がんばります」

まるで新米冒険者さんの挨拶みたいだ。
…いや、まるでではなく、これはたぶん挨拶なんだ。挨拶が何かの手違いで、この掲示板に書き込まれてるんだ。急にピンときてしまった。
僕はなんだか嫌な予感がした。気の所為かもしれないけれど、ちょっぴり具合が悪くなった。

僕はこの5年間、ダンジョン以外で喋ったことがない。喋る相手がいなかったし、その必要もなかったからだ。その内容も挨拶だけ、会話とは呼べないものだった。でも、僕にとってその挨拶は、大切なものだった。せめて、礼儀正しく、それが僕の冒険者モットーだったからだ。でもその挨拶が届いてなかったら…
僕はもういても立ってもいられず、掲示板の前で言葉を口にした。万年初心者なのに、ビギナーチャンネルを利用するのは、それが初めてのことだった。

「…こんにちは、突然すみません。僕の挨拶の仕方、何かおかしいですか…?」

僕は掲示板をじっと見つめた。異国の言葉がスラスラと流れていく。僕は思った以上にがっかりしてしまった。それは答えが得られなかったことにではなく、誰からも返事がもらえなかったことに対してだった。思えば僕が会話をしなかったのは、必要がないからではなく、心のどこかでこうなる気がしていたからなのかもしれない。
僕は名残惜しそうに掲示板を眺めていた。すると、

「ダンジョンのときは、パーティに向けて発言しないと聞こえないよ」

唐突に掲示板に言葉が現れた。もしかしなくても僕に向けたものだ。僕はパーティのみんなに挨拶をするときも、この掲示板に語りかけるのと同じ要領で、言葉を口にしていた。つまり、僕は挨拶すらできていなかったのだ。

「…ずっと、僕の言葉は届いてなかったってことですか…?」

僕は未練がましく、わかりきっていることを訊いていた。

「届いてなかったってことだね…」
「届いてないっすねー」
「まあ、ビギチャに流れる挨拶は大半そうなんで、気にしないで」

今度は複数の返事が返ってきた。なんとも不思議な気分になった。5年も僕は無言だったのだ。

「まあ、とりあえず、今日から挨拶してこう。
 とりあえず、よろしく」

「…よろしくお願いします」

僕は掲示板の向こうの彼らに向けて、この世界ではじめての挨拶をした。
それだけのことなのに、少し暖かい気持ちになった。


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