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Manjiro Hanada

Alexander [Gaia]

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【架空サブクエ】守り手達の追憶 後編

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※架空のサブクエスト・エピソード妄想。二次創作小説です。
※新生エオルゼア・第七星暦ストーリー(パッチ2.4)頃の話と、本編前の回想。


前編
後編

   ◇

幸いにもというべきか、俺は再び瞼を開くことが出来た。

今度は、どこかの部屋の中に寝かされていた。
壁も天井もクリーム色の小さな部屋で、低い棚とベッドが一つずつ。小窓を覆う鎧戸の隙間から、陽の光が射している。
ベッドの傍には椅子が一脚置かれ、そこにセンセイが座っていた。腕を組んだまま、目を閉ざしている。

身を起こしかけた時、部屋のドアが開いた。
「お、起きたのか」
眠りに落ちる前に出会った、白髪の少年が部屋に入ってくる。続いて現れたのは、青緑に近い肌の、丸眼鏡を掛けたゼーヴォルフの老人。

「やれやれ全く……サンクレッド、お前だな?酒一瓶で金のない患者も診ると、うちの事を宣伝して回ってるのは」
「だって、実際診てくれるじゃん。大酒飲みだし」
「死にかけてる者を、放り出せもせんだろう。お陰でまた夜間診療だ」

治療師であるらしい老人は、眼鏡を外して眉間を押さえてから、俺の額と、首回りに手を当てた。
「熱は大分下がったな。汗が酷いから、薬を飲んだらすぐ着替えなさい。気分は?」
良くなった、と俺は答えて、状況を把握しきれないまま、二人に礼を述べる。

「礼なら、そこのエレゼンが目覚めた時に言うと良い。ずっと付きっきりで、君の世話をしていたから」
治療師がカップに湯を注ぎながら、眠り続けるセンセイを目線で示す。

「俺は、あの辺が縄張りだから、身元不明の死体とか発見されちまうと、真っ先に疑われて迷惑ってだけ」
少年はそう言って、素っ気なく肩を竦める。
「そこのおじさん、大変そうだったぜ。お前、寝ながら泣き出すしさ。『カアサン』って何だよ、お前の地元の言葉?」
そんな事を口走ったのかと、俺は真っ赤になって冷や汗を噴いた。

「こらっ、患者の症状を悪化させるんじゃない」
治療師が摘まみ出そうとするも、その手をするりと躱して、少年は窓辺に立つ。
「分かってるよ。俺、もう出てくから」
そう告げて、彼は窓の鎧戸を開け放った。

その時、わあ、と声を上げたのを、よく覚えている。

窓の外には、眩い程の青空が広がっていた。
その下に、幾重にも折り重なるようにしてそびえ立つ、白い壁。尖った屋根の塔と、マストのように張りめぐらされた吊り橋。

この景色全てが街なのか、建物全てに人がいるのかと、自分でも意味の分からない質問を、俺は少年に投げかけた。
これだけの規模の都市など、目にした事もなく、あまりに想像の埒外だったのだ。

「何言ってんだよ?ああ、お前この街は初めてか?」
「エオルゼアに来て、間もないのだったな。シルブヴルト発疹に耐性がないのも当然だ」
景色に見惚れて声も出せない俺に代わって、治療師が返答する。

「ふうん。リムサ・ロミンサにようこそ。ま、綺麗なばっかでもないけど」
ちょっと捻た笑みを浮かべてから、少年は窓枠に足をかけ、猫か何かのように、狭い窓を潜り抜けて出て行った。

「こら!扉から出入りしろと言ってるだろ!」
治療師が窓の外に向けて怒鳴る。少年は、向かいの建物の屋根から手を振ってみせて、ふっと物陰に姿を消した。

   ◇

「それで?二十年前のサンクレッドは、どんな可愛らしい坊やだったのかしら」
「勘弁しろよ……」
ヤ・シュトラが興味深そうに首を傾げ、サンクレッドが呻く。
俺は顎を撫でながら、言葉を探った。
「『窓から出入りする奴』って印象だった」

「何それ?」
「何だそりゃ?そうだったか?」
サンクレッドは、自分の所業を忘れているらしい。

「ルイゾワ様が、余程しっかり教育されたのね……ドアの開け方を覚えてくれて、良かったわ」
「人を野良猫みたいに言うなよ。まあ、あの頃は似たようなものだったが」
大袈裟に嘆いてみせるヤ・シュトラに対し、サンクレッドは情けない表情を浮かべる。

続けてヤ・シュトラは、俺を横目に見つつ、サンクレッドを質した。
「この人はどうだったの?」
「こいつは……あの時は病人だったし、まだ言葉もたどたどしくてさ。大人しい奴だったよ。だから――」
ふと、サンクレッドの眼差しに陰が射す。
「だから……俺みたいになったら駄目だ、と思った」

   ◇

治療師の指示に従い、もう二、三日ばかり、俺はベッドの中で過ごした。
センセイは、俺の面倒を見ながら仕事に奔走している。今回の稼ぎが、俺のために丸ごと飛んでいくのではないかと心配になったが、そんな事をお前が気にするなと叱られた。

病室で寝ていると、白い髪の少年が、退屈だろうと言って、時々窓から顔を見せに来た。
彼はこの街に詳しく、すぐ裏手の海に大きな船が来たとか、マーケットでネズミのような種族をたくさん見かけたとか、そんな話をしていってくれた。

――熱が下がり、後遺症もなさそうだという事で、明日には退院と決まった日の朝。
俺はベッドの上に正座をして、センセイに、もうしばらく雇ってくれと頼み込んだ。

様々な理由付けを考えていたのだが、上手く言葉にならない。ただ、センセイと一緒にいたい、せめて、一人前に手助けが出来るようになって、恩を返せるまで、と述べた。
礼のひとつも言えないまま、突然の別れに後悔するのは、実の家族と養父だけで、もうたくさんだった。

センセイは、大分長らく考え込んでいたが、やがて、契約書の仕事内容欄――『リムサ・ロミンサまで』と書かれた部分の上に、二重線を引いてペンを置いた。
「明日には街を発つ。それでいいか?」
センセイがそう問いかけ、俺は頷いた。

   ◇

その日の午後、少年が見舞いに来た。

明日、この街を去る事になったと明かすと、少し寂しそうに表情を曇らせたが、
「そっか。元気になって良かったな」
と笑ってみせた。

旅商をしていれば、きっとまたこの街を訪れるだろう。その時は会いに行く、と言いかけたところで、少年が街のどこに住んでいるのか、知らない事に気づく。
考えてみれば、互いに名乗ってもいない。治療師が名を呼んでいたように思うが、ちゃんと聞き取れなかった。

次に街に来た時は、どこの誰を訪ねれば良いのかと訊くと、少年は急に、気まずそうに視線を落とし、首を振って拒絶する。
「やめとけよ。俺の事なんて忘れちまえ。明日には、野垂れ死んでるかもしれないんだし」
その言い草に驚いて、俺は更に問い質した。何か事情があるのか、重い病気でも抱えているのか。

「病気って訳じゃないけど……もういいだろ。ほっといてくれ」
怒ったように少年は言って、腰掛けていた窓辺から立ち上がり、向かいの屋根へと飛び移ってしまった。
俺は慌てて、彼の姿を目で追う。
建物の裏手に回り、見失ったかと思ったが、目を凝らしていると、石塀の上を駆ける小さな影が、視界の隅にちらりと過ぎった。
俺は急いで靴と鞄を取ってきて、窓から病室を抜け出した。

こんな別れ方は嫌だ。何故怒らせてしまったのか分からないが、話を聞いて謝ろう。それに、お礼もまだきちんと出来ていない。

少年の消えた方角を目指し、塀の上や石畳を、闇雲に走る。
そのうちに、狭い路地に迷い込んだ。割れた酒瓶や、空の樽が転がっている。
男が二人、何事か声を潜めて話し合っていた。一人がこちらに気づき、胡散臭そうに睨みつけてくる。
俺はそろそろと、二人の傍らをすり抜けようとした。

「おい坊主、待て」
声がかかり、男が行く手に立ち塞がる。
「見かけねえ顔だな。どこのこそ泥だ?」
こそ泥?と俺は、聞き覚えのないスラングに目を瞬かせ、逆に思い切って尋ねてみた。友達を捜しているのだが、知らないかと。

「友達ィ?」
男達は顔を見合わせ、げらげらと笑い出す。
「坊主、この通りじゃあな、人に何か頼みたけりゃ、まず先にやる事があるんだ。……その鞄の中身は?今日のアガリか?」

“アガリ”が何を指すのかは分からなかったが、鞄の中身を彼らに教えるのは、躊躇われた。
中には財布が入っている。先日貰い始めたばかりの給金で、全財産だ。
鞄の紐を握りしめて後退ると、男達は一歩前に踏み込んでくる。

そこに、新たな声が飛んできた。
「おい、お前ら!」
あの白い髪の少年だ。
「そいつに構うな!」
少年は男達をどやしつけ、俺の腕を引く。

「何だ、サンクレッドかよ。お友達ってのはそいつの事か?じゃあやっぱり、こそ泥仲間じゃねえか」
男が鼻で笑った。
「違う!こんな奴、友達でも何でもねえよ!無関係だ!」
少年は言い返し、俺の方を振り向いて、眦を吊り上げた。
「ほっとけっつっただろ。何でここに来た!」

俺は何と答えたのだったか――だって、謝りに、とか何とか、あやふやな言葉を並べた気がする。
少年は苛立って、激しく首を振った。
「お前、あんな大事にしてくれる人がいるんじゃんか。俺の仲間なもんかよ。さっさと行っちまえ!」
掴んでいた腕を放すなり、少年は俺を思い切り突き飛ばした。
先日の大雨で出来たものなのか、路地の窪みに広がっていた、大きな水溜まりに、尻餅をつく。

泥水まみれでぽかんと見上げる俺を、少年が、ほとんど泣き出しそうな顔で見下ろしていた。

   ◇

治療師の家まで戻ってくると、玄関先にセンセイが立っていた。
とぼとぼと歩いてくる俺の姿を見つけて、センセイは厳しい表情で駆け寄る。

「勝手に抜け出して、一体どこに行っていたんだ!……その格好は?何があった?」
何でもない、ごめんなさい、とだけ答えて、俺は家の裏手の井戸に向かった。

水を汲んで、一先ず上着と鞄を洗っていると、だんだん情けない気分になってきて、俺はべそべそと鼻を啜りながら洗濯を続けた。
粗方泥を落としたところで、不意に、穏やかな声で後ろから名を呼ばれ、慌てて涙と鼻水を拭って振り向く。

センセイが屈み込んで、一体何があったのかと、もう一度問いかけてきた。
俺は観念して、状況を説明する。

――こちらに来て初めて、同じ年頃の友達が出来たと思ったのだが、どうやら彼を傷つけてしまったらしく、友達ではないと言われた。

そのような内容を、不明瞭な言葉で語り終え、また俺は涙を拭った。十二にもなって、人前で泣きたくはなかったのだが、ここ数ヶ月で何度か我慢した分まで、勝手に溢れてくる。

あの子に悪いことをした、と俺はセンセイに言った。
センセイは、困ったように眉間に皺を寄せる。
「別に、悪いことをした訳じゃない。勝手に病室を出て行ったのはまずいが。お前はその子に礼が言いたかった、それだけだろう」
俺は力なく肯定した。
「その子は……恐らく、お前を守りたかっただけだ。しかし、守る方法を選べる程には、お前達はまだどちらも、成長しきっていない」
それだけなんだ、とセンセイは言い聞かせて、俺の顔にまだこびり付いていた泥を拭い、立ち上がった。

「心残りかもしれんが、今はそっとしておけ。この街に、容易に踏み込むべきでない領域がある事は、嫌という程分かっただろう」
俺は少し考えて、また頷く。

――守りたい人を守る。
――返しきれないような、山程の恩を返していく。

それが、満足行くくらいに実行出来るようになるのは、いつの事だろう。その時が来たら、また彼に会えるだろうか。

センセイに促されて、俺は治療師の家の戸を叩く。
もう一件、説教を喰らう必要があるらしかった。

   ◇

すっかりエールを飲み干して、横を見ると、サンクレッドは大分出来上がった顔色になっている。
思い出話を肴に、少々ハイペースで飲み過ぎたようだ。

「今まで忘れといて、なんだけど」
相手が酔っているのを良いことに、俺は質問しづらい一件について尋ねてみる。
「あの後、大丈夫だったのか?泣かされたって言ってたけど、俺のせいか?」

「うんー?ああー、泣いた泣いた。あの頃、同じ年頃の友達なんていなかったからさ、調子に乗っちまって……お前に悪いことしたって思うと……」
むにゃむにゃと、サンクレッドは答えた。
「俺はいつだって、守りたい奴を守りきれない男なんだよ……笑ってくれよ」

「笑えんから起きてくれ」
くだを巻きつつ、カウンターに突っ伏してしまったサンクレッドの肩を、俺は慌てて揺さぶる。

頬杖をついたヤ・シュトラが、はあ、と息を吐いた。
「詳しい事はよく分からないけど、彼が不器用って話?ええ、その通りよ」
「不器用か……俺の周りはどうも、そんな奴だらけだな。槍の師匠といい」
「あら、奇遇。私の師も、不器用で頑固者でね。師匠と名のつくものは、そういう生き物なのかしら」
ヤ・シュトラが謎めいた持論を展開する。

「ヤ・シュトラに師匠が?初耳だな」
「貴方の話も、初めて聞くわ」
ふふ、と含むような笑い方をしてみせるヤ・シュトラである。

「久しぶりに、昔を思い出したもんで」
「その師には、今も会いに行ってるの?」
「いや……」
俺はしばし、返答に迷った。
「……大分前に別れて、それきりになっちまったよ。最近、イシュガルドの騎士から話を聞けて、ようやく行方が分かったが、もう墓の下に眠ってた」

イシュガルド人、それもどうやら亡命者だったらしいセンセイ――クレマン・ムールは、数年に渡るあてもない放浪の旅の末、突如、俺を置き去りにして故郷に戻ってしまった。
イシュガルドの仇敵である邪竜が目覚め、故郷の周辺の村がいくつか、ドラゴン達によって焼き払われた。その報せを耳に入れ、捨て置けなくなったのだ。

いつか、クルザスの奥地まで踏み込む機会があれば、墓参りくらいには行こうと思う。結局恩返しをさせてくれないままかと、墓前で文句のひとつも言ってやりたい。
ちなみに、クレマン・ムールという名は偽名だった。彼の行方を知るアルベリクからそれを聞かされ、俺はつくづくと、苦笑いを零した。

「――悪いことを聞いたわ、ごめんなさい」
「良いんだ。丁度誰かに愚痴りたかった話でね」

淡々とした会話を交わしたのち、俺達はどちらからともなく、完全に寝息を立てているサンクレッドを見つめる。

「で……どうすっかな」
重量的に、寝室まで運べなくもないだろうが。
「水でも引っ掛けたいところだけど。カウンターを濡らすのはフ・ラミンに悪いわ」
「後で私が起こしておくから、二人は気にしないで」
フ・ラミンは穏やかに微笑んだが、多分、それはサンクレッドが気にするだろう。

「仕方ない、部屋まで連れてってやるか」
フ・ラミンに礼を言って、俺は席を立ち、フニャフニャと何か言いかけてはまた意識を手放すサンクレッドに、肩を貸す。
「成長ねえ……したのかね、身長体重以外に」

「師の例を考えると」
先に立って廊下を歩きながら、ヤ・シュトラは呟く。
「人間は成長に伴って、より不器用に捻くれていく、という可能性もあるわね」
「恐ろしい事を言うなあ」
あながち、否定も出来ない。

俺は自身について省みる。
元より、そう器用に世を渡れる性分ではない。上達したのは、僅かばかりの武器の扱い方だけかもしれない。
守り抜きたい存在も、返しきりたい恩も、まだまだそこらじゅうに、転がりっぱなしなのだった。

 <了>
Comments (2)

Oliver Classic

Alexander [Gaia]

はじめまして!
読み進めるとあまりに面白くて、ついつい架空サブクエシリーズ全部読破してしまいました!
マンジロウ氏の次の活躍に期待します!笑

Manjiro Hanada

Alexander [Gaia]

>Oliver様

うわ~読破して頂けるとは!
コメントまで頂きまして、どうもありがとうございます!
これからのゲームと創作の励みにしていきます!
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