Kirke A'jegnoire
Tiamat [Gaia]
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(乙女の夏、大勢の海…。悩殺水着は必須アイテムでっす。ああ、でも…)
丸い顎に右手をあて、眉間に深いしわを寄せながら、本人曰く悩殺水着を、穴が開くほど見つめる。
この布の面積で穴が開いたら、それこそ水着ですらなくなってしまうのだが。
懐から財布を取り出そうとして、やめる。中身は見なくてもわかっている。
タタルの懐は、只今極寒である。氷神シヴァも裸足で逃げ出す凍りつきようである。
深い深いため息を吐くと、タタルは手にした水着を元の場所に戻し、一人考え込んだ。
タタルの懐が寒いのには事情がある。暁の皆の装備を作るのに、自腹を切っていたのだ。
危険な任務の多い暁の仲間の装備には、一流の素材を使うのは当然。
となるともちろん、その素材も高価なものばかりなのだ。
しかも壊れたり、破れたりした場合は、修理もタタルが受け持つこともある。
内職は数多くこなしているタタルだが、それで稼いだ資金は主に、暁の運営費に回している。
となると、タタルが自由にできるお金など、幾ばくもないのが実情で。
(水着そのものを買うのではなく、素材を買って自分で作る…)
(ああ、ダメでっす。海に行く日まで何日もないでっすし、水着用の布もたっかいのでっす…。)
タタルは弱りきって、目を閉じ肩を落としてしまった。
(ああ…、みんなで行く海…バカンスといえば悩殺水着…!着たかったのでっす…。)
(さっきの水着があれば、きっとみんなの注目の的、射止めたい男子もイチコロでっす…。)
(…ん?射止めたい男子?そんなのいたのでっしたっけ…)
ふと、馴染みの冒険者の顔が浮かんだ。
なぜか、冒険者に擦り寄る、悩殺水着アリゼーも浮かんだ。
(…ッッッ!?)
タタルは顔を上げ、アリゼーとアリゼーの選んでいる水着を確認した。
最近、アリゼーは冒険者にだいぶお熱である。
まわりの目はごまかせても、この暁金庫番のタタル嬢の目はごまかせない。
彼女がこれを期に、冒険者に大胆接近を企んでいるとしたら…。
そんな一大事、これはもう、暁の運営資金に手を出してでも水着を買わなければならない。
タタルは殺気もこもろうかという視線で、水着の会計待ちをしているアリゼーを見た。
だが、先ほど浮かんだ妄想に反して、彼女の選んだ水着は、だいぶスポーティーなものだった。
可愛らしい要素は散りばめられているものの、アリゼーらしさを大きく崩すデザインではないように見える。
視線に気づいたアリゼーが振り向くのと同時に、タタルも後ろを向き、大きく胸をなでおろした。
勝てる。
これは、悩殺水着じゃなくても勝てる。
というか、アリゼーは普通に海を楽しみに行くだけのようだ。
想像の中のようなことをするつもりはないと見て、まず間違いないだろう。
安心したタタルは、悩殺水着に向き直ると、笑顔でさよならをした。
そのまま、音符が飛び出そうな機嫌のいい顔で、水着を選ぶみんなの輪の中に入っていく。
悩殺はまた今度でっす。
今年は、デザインも気に入っている、今までの水着を着まっす。
アリゼー様にも失礼な想像をしてしまいまっした。
反省も込めて、今年の海は、めいっぱいみんなと遊ぶのでっす!!
もちろん、注目の可愛らしさは独占しまっすけどね!!!
自分の水着姿を想像して、自信を深めたタタルは、ふふん、と鼻を鳴らして、
まだ水着選びに四苦八苦している面々のもとへ、アドバイスに向かったのだった。