ー2話 夢を駆ける獅子座レグルス
ここは、夢の中。漆黒の闇。その漆黒の中に煌めく星々。私は、その闇の中を、まるで彗星の様に駆けている。ある星は、赤く力強く。ある星は、穏やかに、青白く。私は、その星々の声なき声を、聴いてる。私は、この星々の中に、きっと私を同じ様に宇宙を駆けている人がいる。星々が、そう、告げている。私は、目を凝らして、必死に探す。いつもは、ただ、闇の中。何も見つからない。しかし、ある日、私は、私と同じ様に、生命力に満ちた、力強い、彗星が駆けているのを見た。そう、生まれて初めて。私と同じ人がいるのだと。私の心は、喜びと安どに満ちた。そう、いつも、ここの世界は、独りなのだから。私は、その彗星の、一見すると、力強いけど、どこか、脆い、不安定な輝きを目にして、居ても立っても居られなくなった。私は、必死に、その彗星を追いかけたけど、たどり着く事はない。そこで、私は、目が覚めた。
私は、転校初日の挨拶で、今朝見た、彗星と同じ輝きの男の子を見た。私には、その人の性格や雰囲気を色で判断している。別に、誰から習ったわけではない。ただただ、呼吸をするように。自然と覚えた。私は、夢の中の星々と、現実の人々。何も違わない、すべて同じ。ただ、今朝の彼の輝きは、沈んでいて、くすんで見えた。でも、私は、間違えない。確かに、あの輝きは彼なのだと。
私は、次の日、クラスメイトから、離れて読書している彼に話しかけた。
「初めまして、私は、宮沢。村上君だよね。よろしく。」
彼は、完全に意図してなかったらしく、しばらく唖然としていた。そして、我に返ったのか、ボソッと
ー村上です。よろしくー
彼の視線が泳ぐ。読書に戻るべきか、話を続けるべきか、悩んでいるらしかった。私は
「村上君、何読んでいるの?」
彼は、うつむいたまま、ブックカバーを外して
ーサン・テグジュペリの夜間飛行ー
とだけ、言って、本を見せてくれた。
私は、朧気な予感から、確信へと変わった。
「村上君、夜間飛行のどこが好きなの?」
その時、彼の色は、生き生きと生命力に満ちた輝きを放った。
ーこの、小説は、当時、難しい夜間の航空を語ったサン・テグジュペリの実体験の本だけど。その中でも、彼が、闇の中を、星々の海を駆けるのところが好きなんだー
私は、夜間飛行を語る、彼の瞳を見つめていた。そして、不思議なことに、彼の瞳の中には数多の星々が煌めいていた。
私は、その、宇宙の様な瞳を見つめながら
「うん、私も大好き。サン・テグジュペリが砂漠に不時着して、何もない所に空を見上げる。そこには、限りない星々が煌めいている。私はそこが好きだな。」
彼は、力強く、頷きながら
ーうん、僕も、そこは好きだね。本当は、生きるか死ぬかの瀬戸際なのに。それでも、宇宙が彼とともにいてくれたんだからー
=孤独じゃない=
私たちの声は、重なり合ってシンクロした。私たちはしばらく笑いあった後
「ねぇ、村上君。この街で一番夜空が見えるとこどこかな?」
彼は、しばらく考え込んだ後
ー僕は、この学校の裏にある展望公園が一番、夜空が見えると思うよー
私は、彼の手を取った。優しい温もりのある手だった。
「なら、今夜の九時に、そこで、宇宙(そら)を見てみない?」
彼は、一瞬虚を突かれた顔をしたけど
ーうん、いいよ。僕でよければー
私は、満面の笑顔で
「うん、それじゃあ、今夜の九時によろしくね」
と答えて、彼から離れた。私の心臓は、今までになく高鳴っている。ついに、同じ宇宙を駆ける人と出会たのだから。
学校が終わった。そして夜。私は、展望公園に向かうために、厚手のジャケット羽織った。春とは言え夜は冷えるから。私は、途中で、自動販売機でホットの缶コーヒーを二本買って向かった。街灯が寂しく、照らす夜道でも、夜空はいつになく輝いていた。
私が公園に着いたときには、もうすでに彼はいた。黒のウインドブレーカーに着込んだ彼はどことなく寒そうだった。
「こんばんは、村上君」
ーこんばんは、宮沢さんー
「寒いでしょ、はい、差し入れの缶コーヒー」
私は、温もりのある、缶コーヒーを手渡すと、彼の表情は、みるみる喜びが表れてきた。
ーありがとう、宮沢さんー
私たちは、暖かい缶コーヒーを飲みながら、夜空を見上げた。
そこには、いつも見上げている夜空がより近くに見えた。
ー宮沢さん、今日は獅子座のレグルスがよく見えるよー
私は、明るく強く光る一等星のレグルスを見上げながら
「村上君、実は、私、君のこと探していたんだ」
驚いて、私を見つめる彼の視線が感じる。
「そして、お願いがあるの…」
私の言葉が、闇に溶けていくのを感じながら
私は、夜空を指して
ーあの世界を私と一緒に旅にでてほしいんだー
以上が、今回の2話目の作品となります。どうか、ヒカセンのみなさんの口コミとイイね、コメント、X等よろしくお願いします。今回もありがとうございましたw