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レオニア王国記 外伝 ルイス、マテウス編二

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※※※※※

白い街は、陽炎の中に揺らいでいた。

ツインレオ城の南に広がる城下町は、トラウト川によって二分された、大きな街だった。
大規模な都市計画のもとに建設された街は、地下から切り出した石灰岩で作られており、建物から橋に至るまで、白で統一されていた。十剣山脈を背景に広がる街並みは、吟遊詩人に歌われる程に美しく、一枚の完成された絵画のようだと称された。

街の南北を走る通りは、王国のメインストリートだった。
それはツインレオ城へ通じる北の城門から始まり、川の中州にある広場を抜けて、南の城門に至るまで、緩やかに傾斜した一本の道が続いていた。道路には石畳が敷かれ、商店が軒を連ねるマーケット通りになっている。
普段から人で賑わう界隈だが、祭の開催日とあって、その日は一段と人波に溢れていた。

「凄い人ですね…!」

焼けた石畳を踏みしめながら、王子が歓声をあげる。中天に差し掛かった太陽の光で熱された空気は、群衆の人いきれによって、更に暑く感じられた。

「王国をあげた祭りですからね。各地から集まる人々で、毎年大変賑わいます」

王子の手を引いて、人混みの中を縫うように歩きながら、ルイスが無表情に答える。
じりじりと焼けつくような最中にあって、彼の回りにだけは、まるで涼風でも吹いている様な風情だ。

商店の軒先には、品物がうず高く積まれていた。その間から、客引きに余念の無い店主達が、競って大声をあげている。
織物を扱う店先では、店主と客が難しい顔で値引きの交渉を繰り広げ、アクセサリー屋の店主が、商品を吟味する客に、心にもないお世辞を並べ立てていた。

「街が、この様に賑やかな物だとは知りませんでした」

「この辺りは、商店街になっていますからね。祭りの見物客を相手に、掻き入れ時なのですよ」

店先に並んだ色鮮やかな果物に目を奪われながら、王子はふうん、と鼻を鳴らした。

「母上の仰っていたお菓子は、どこに売っているのでしょう?」

「この大通りを抜けた先の広場です。少し歩くことになりますが…大丈夫ですか?」

「平気です!折角来たのですし、色々見て回りたいです」

王子は、屈託のない笑顔を見せた。

「そのお菓子って、どの様なものなのですか?僕も、早く食べてみたいです」

「白くて丸い…砂糖菓子です。サクサクとして、口の中に入れると、すぐに溶けて無くなってしまいますが」

まるで雪のようですね、と王子が形容する。

「ルイスは、そのお菓子が好き?」

「そうですね。昔はよく食べていたので、懐かしくはあるかも知れません…きっと、お気に召しますよ」

ふと頭上を見上げれば、道路を跨ぐワイヤーに、青と赤の三角形をした小さな旗が、無数にはためいているのが王子の目に止まった。

「あれは、何の飾りなのですか?」

「青はレオニア、赤はタイガルドの国旗の色です。祭りは、両王家の婚礼記念も兼ねておりますので。その友好の証、というわけです」

「友好の、証…」

王子は、交互にひらめく青と赤を見つめながら、ルイスの言葉を反芻した。

「僕は、教科書でしかタイガルドの事を知りません。お祖父様の治める国…なのですよね」

「左様です。シルベウス六世、現国王陛下ですね」

「お祖父様は、どのような方だったのですか?」

王子が、隣を歩くルイスを真っ直ぐに見上げた。

「ルイスも、タイガルドに居たのでしょう?お会いしたことはあるのですか?」

「わたしも、数えるほどしかお会いした事がございませんので…ただ、武勇だけでなく、魔法にも造詣が深いお方だと聞いております」

実際のところ、ルイスがシルベウスを見たのは、王立学院の入学式の時と、騎士の叙勲式の時ぐらいのものだった。堂々とした体躯のアウラ族で、黒光りする鱗と、大きな角が印象的だったのは覚えているが、人となりとまで言われると、知るよしもない。
ルイスが言いあぐねていると、王子は正面を見据えて、独り言のように言葉を続けた。

「もし、もしも…、お祖父様が戦争を仕掛けなかったとしたら…母上は、今でもタイガルドで暮らせていたのでしょうか?」

「!?」

「イルミナ様に仕える家臣が、話しているのを聞いてしまいました。タイガルドのお荷物は、早く国へ帰るが良いと――その様に思われてまで、母上はここに居なければならないの?お祖父様は、何を考えておいでなのでしょう?」

トラウト川を渡る風が、吊られた旗に戯れて、ばたばたと音を立てながら過ぎていく。

「お祖父様の事を母上に訪ねても、困ったように微笑まれるだけで…」

繋いだままの王子の小さな手が、きゅっと握り返してくる。
王子を取り巻く環境は、八歳の少年が受け止めるには、余りにも重すぎた。母の祖国と、自分が生を受けた国の板挟みになっていると言ってもいい。そんな中で、一番の心の拠り所である母親の容体が余り良くないとなれば、その不安たるや想像を絶するものだろう。

「ねえルイス。母上のご病気は、きっと良くなりますよね?」

ルイスは歩みを止めると、腰を屈めて王子と向き合った。そして、鞄の中からハンカチを取り出すと、王子の額に光る汗を拭う。

「わたしは医者ではありませんから…けれど、故郷の菓子を前にすれば、気分も晴れやかになられると思いますよ」

「…ほんとうに?」

「はい、きっと。姫は、あの菓子が大変お好きでしたから」

大人しく汗を拭われながら、王子がぽつぽつと言葉をこぼす。
ルイスは、自分の言葉が気休めにしかならないのは分かっていた――母を気遣う王子の思いが、実現出来ないことも。それでも、王子の不安を少しでも和らげたい。そう思った。

「…ルイスは、タイガルドが懐かしい?帰りたいと思いますか?」

「懐かしくない、と言えば嘘になります――が、わたしは貴方がたに付き従う身。何処へなりとも参りません」

ルイスは立ち上がった。「失礼します」と声をかけ、王子を仔犬のように抱き上げる。

「えっ?わっ!」

「少しお疲れのご様子ですから…そしてこれより先は、安全のためにマティとお呼びします。宜しいですね?」

「マティ…僕の名前ですか?」

「ご身分が知れ渡ると、色々面倒なことになりますので…不敬は承知の上です。お許し下さい」

「ううん。いい名前だと思います!」

王子は、宙に浮いた爪先を小さく上下させながら、微笑んで見せた。

「ではマティ。参りましょうか」

「はい!…あっ」

「どうなさいました?」

王子は両の掌で輪を作ると、ルイスの耳に押しあてて囁いた。

「ルイスの、秘密のお名前は何ですか?」

「は――、わたしですか?」

王子が頭を縦に振り、相槌を打った。期待に満ちた翠の瞳が、答えを待っている。ルイスは困惑した。名前を付けたのは、あくまで王子の身の安全を考慮しての事で、まさか自分の事を聞かれるとは思っていなかったから。

「いえ…わたしの事は、そのままルイスとお呼びください」

機転の利かぬことだ、とルイスは心の中で自嘲する。しかし、王子はそれを笑顔で受け止めた。白い歯を見せて笑う姿は、年相応の少年のあどけなさに溢れている。ルイスも、つられて吹き出した。

「さ、参りましょう。ほら、トラウト川と広場が見えますよ」

緩やかな傾斜の向こうには、陽光を浴びて輝くトラウト川と、その中州に作られた、人工島のような広場が見えた。
蟻の行列を思わせる人波が、アーチ橋を渡って、広場へと吸い込まれていく。背の高い竹馬を履いた大道芸人が、ラッパを吹きながら人混みの中を練り歩き、子供達が歓声をあげながら、その後ろをついて行った。

(続く)

※※※※※
本文のイラスト:Luis Seraさん作。いつも素敵なイラストをありがとうございます。
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