《幽霊を探せ》
#今日も今日とてエオルゼア
いまだ嵐の中のエールポート。
窓の外から
強い雨風の音が漏れ聞こえる。
それに慣れてくると、人の声少ない酒場の中が、さらに静かに感じてしまうから不思議なものである。
この場で会話する者は、
たったの二人。
冒険者の姫巫女と、
エールポートのギルドリーヴ管理官であるオルウェンだ。
心得たもので、酒場の主人と女将は、会話の邪魔にならぬようにと、無言で何かしらの仕事に手をつけている。
「それで、依頼の内容について、お聞かせくださるかや?」
姫巫女の問いに頷くと、
オルウェンはこう説明した。
ことの初めは数週間前。
エールポート北西、スカルバレー付近を見廻りしていたイエロージャケットが最初にその幽霊を見つけた。
イエロージャケットとは、リムサ・ロミンサ提督直轄の治安維持部隊の名称で、隊員達の黄色いシャツがトレードマークとなっている。
エールポート周辺には、街と対立する蛮族や、魔獣などが徘徊しているため、それらの動向の調査と哨戒を目的として、見廻りを行っていたのだ。
隊員曰く、
闇の中に青白いモヤが見えたかと思うと、それは人の形となり、じっとこちらを見ていたのだそう。
思わぬことに身を固めた隊員を数秒見つめた後、音もなく夜の闇に溶けていったらしい。
その後も、街道を行く商隊馬車の御者、西方の砦へ向かう兵士、エールの飲み過ぎで街の外に出てしまった酔っ払いなどなど…
多くの目撃者が現れた。
「なるほど。それで、どんな被害がありましたかの?」
「大した被害はございません。
驚いた者が腰を抜かしたとか、持ち物を落として壊したとか、その程度ですね」
「そなんだ…」
こう言っては不謹慎かもしれないが、どうにも物足りない。
この世界では、ちっちゃなものから、おっきなものまで、様々な魔物が存在している。
中には生ける屍的な、ちょーっと関わりたくない輩もいて、幽霊などもまたそのひとつ。
珍しくないわけではない。
でも、
「なんというか…そんなに被害は出ていなくない?」
小首を傾げながら、
姫巫女がオルウェンに尋ねる。
わざわざ、リーヴとして登録してまで?という意味も込めて。
それを汲み取り、彼が答える。
「そうですね。
目撃者たちからは、驚きはしたものの、別にどうこうしてくれという声は上がっておりません。
街の外へ出た酔っ払いさんは、家族からしばらく禁酒を言い渡されたそうですがね」
そう言って、
オルウェンが小さく笑う。
「それはまた、商売に響きますの。となると、こちらからの御依頼なのかや?」
オルウェンの軽口に合わせるように、カウンターにいる女将を見ながら姫巫女がいうと、彼女は微笑み肩をすくめてみせた。
「ハズレ。うちからの依頼じゃないよ。あ、そうだ、姫巫女さん。ホットジンジャーはちみつエール飲むかい?あったまるよ」
「のむ!!!」
即答。
的外れな意見と思ってはいたが、話を振ってみるもんである。
「あれはエールポートの名物で、アルコールが抜け、子供やお酒が苦手な人にも飲みやすい逸品ですよ。
それで依頼なのですが、街のとある女性から上がっています。
最近目撃された幽霊がどんなものか調べてほしい、と」
「調べる…祓ってほしいとかではなく?」
両の手で棒を持ち、
それを左右にサッと払う仕草。
大麻(おおぬさ)または御幣(ごへい)と呼ばれる白い紙束のついた棒を用いて厄を祓う儀式の真似事だ。
姫巫女の故郷では馴染み深い所作だが、オルウェンには見当もつかなかっただろう。
オルウェンが話を続ける。
「はい。どんな姿をしているのか、どんな様子なのか、何者なのか、それを知りたいと」
「そっか。
わかりましたのじゃ。
エールポートの幽霊調査、たしかにお引き受けいたしますのじゃ」
ウインクしながら姫巫女が言うと、
オルウェンはホッとした様子で礼を言った。
「ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします」
そして、こう続けた。
「実はもう一つ、お伝えしなくてはならないことがあります」
「はいはい、なんじゃらほい?」
「昨日、駆け出しの冒険者が二人、同依頼を受けたいと言ってきました。それで、姫巫女さんが宜ければ、その者たちも同行させてもらえないでしょうか?」
「姫は構わぬけど…そしたら、その方々に依頼をお譲りした方が良くない?」
冒険者の依頼は、受諾も達成も、基本は早い者勝ち。
それを生業としているのだから、当然のことである。
姫巫女の場合、現在は特に急を要していないので、他にこの依頼を受けたい者がいるのならば、譲ることもやぶさかではない。
しかし、
オルウェンの考えは違うようだ。
「いえ、是非ともこれは姫巫女さんに受けて頂きたい。
そして、その者たち、初心者の館を卒業した二人の新米冒険者とパーティーを組んでもらえませんか?」
冒険者たちが、それぞれの役目を分担し、数人単位で依頼に取り組むことを『パーティを組む』という。
親しい友人や、同じギルドに所属するものたちで組むことはもちろん、このように、現地にて目的を同じくする者たちが、その場限りのパーティーを組むことも珍しくはない。
が、冒険者の依頼は、
命懸けの場合も多い、
ってもんじゃない。
命がいくつあっても足りないぞ、こんちくしょー!
そんなのもざらであるが故に、その場のノリで組めるものではない。
ある程度の慎重さ、
確認は必須である。
「パーティは全然構わぬけど、姫はメンターでもないし、熟練者でもないから、何かできるとも思えぬよ?」
『初心者の館』とは字の如く、冒険者になりたての者を対象とした、訓練施設のこと。
『メンター』とは、熟練者のなかでも、特に技能に優れ、知識の深さ、立ち振る舞いに至るまでを、冒険者の鏡として上記施設の教官に認められた者のことである。
なんか、
今回は初めて用語が多い気がする。
エオルゼアに住むものならわかるよね♪で済むものなら楽なのだが。
説明うざっ!という方、
謹んでお詫び申し上げます。
さて、続行続行。
「いやいや、御謙遜を。
漁師ギルドのシシプさんから、
どんな依頼も
ケラケラ笑いながら
楽しくこなしちゃう
と、聞いております」
あちらとしては、褒めているのだろうし、オルウェンの表情を見ても、敬意しか感じられないのだが、
「なんか…バカっぽくない?」
少しばかり釈然としないものを感じつつも、オルウェンの申し出を受けることとなった。
余談であるが、ホットジンジャーはちみつエールは、それはそれは美味しかったそうである。
「なにこれ!美味しいぃっ!」
次の日。
どこまでも青く澄み切った空。
穏やかな波の音に、
海鳥の声。
港町エールポートの魅力を、存分に引き立てる、
「んーっ!いいお天気っ!!」
と、なっていた。
この街のエーテライト広場には、航海や漁の安全を司るという、白い女神像が立っている。
背に美しい羽根を翻した、
美しい人魚の女性だ。
祈るように手を組む彼女の眼差しは、遠く広がる水平線を見つめている。
「さて、もうすぐいらっしゃるかの?まだかなーっ」
キョロキョロと辺りを見渡しながら姫巫女が呟くと、
『姫様、落ち着きなさいってば』
『なもなも』
側にいるチーズとちびなもさまに嗜められた。
『一応、先輩(笑)として会うんでしょ?もう少し、どっしりと構えていた方がいいんじゃないの?』
チーズの言い分はもっともだが、
「…ちょっと今、先輩の言い方がおかしくなかった??」
『ナンノコトデショウ?』
「ふーんだ。いいんだもん。なんだかんだで、初めましては楽しみなんじゃもん。
わくわくしてもいいじゃろっ」
『姫様は「姫様」なのに、威厳とかと無縁だよねぇ』
「親しみやすいじゃろ?」
『よく言えば、ね』
「もーっ、チーズの意地悪さん!」
キャイキャイ、わいわい、
そんなことを話していると、
「…あの、すいません」
と、背後から声がかけられた。
新しい出会いの始まりである。
《続く》
☆この作品はFF14の世界を題材とした二次創作であり、
色々、様々、姫の想像と妄想の夢物語なのじゃ☆
実際の作品、物語、プレイヤーを表すものではございませぬ。
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なので、転用しちゃダメじゃよ!!
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