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【ヒューランシュミゼット】
worn by
ルミアレリナ・フィンネス
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
◆ 装いは、刃を縛らない ◆
それは、リムサ・ロミンサ海軍主催の公式晩餐会だった。
ガレマール帝国の侵攻を退け、各国が束の間の安堵に包まれていた時期――それでもなお、次なる脅威の気配が消えぬ頃のことである。
提督であるメルウィブ・ブルーフィス自らが出席し、上級士官、交易を担う有力商人、そして各地から訪れた貴族たちが一堂に会する、格式ある席。
それは同時に、戦後の均衡を探るための場でもあった。
誰と誰が言葉を交わし、どの商人がどの国に与するのか。
些細な会話一つが、やがて大きな流れを生む――そんな緊張が、水面下に静かに満ちている。
そこに、ルミアレリナ・フィンネスの姿があった。
白と黒の装い。
本来は簡素な衣服であるヒューランシュミゼットを、エレナの手で礼装としてコーディネイトしたものだ。
柔らかな白布の上に、黒が静かに輪郭を引き締めている。
あまり華々しい装束を好まない彼女が、なぜ、このような格好をしているのか。
理由は単純だった。
この場では、それが必要だったからだ。
彼女は、ガレマール帝国を退けた功労者として、そして暁の血盟の代表の一人として招かれている。
この場での振る舞いは、個人の問題では済まず、この場に相応しい姿を求められた。
出立前のことを、彼女は思い出していた。
「うんうん……本当に似合うわねえ」
エレナは、満足そうに頷いていた。
鏡の前に立たされ、ルミアレリナは自分の姿を見る。
形として整っている、とは思った。
だが。
「そうかな……?」
それ以上の感想は、出てこなかった。
それが自分であるという実感が、どこか薄かった。
けれど今、立食の晩餐会場に立つ彼女に向けられる視線は、明らかに普段と違っていた。
柔らかい声音。
近い距離。
丁寧すぎるほどの所作。
それらすべてを、ルミアレリナは静かに受け止めていた。
拒否も、戸惑いもなく、この場でどう振舞うべきかを、ひとつひとつ判断していた。
入場の際に、丁寧に案内をしてくれたスタッフの男が、さりげなく近くに控えている。
彼は、どこか肩の力が抜けた話し方をする人物だった。
「困ったことがあれば、すぐにお声がけください」
そう言ってくれた彼は、会話の中で、かつて海賊だったと語った。
今は更生し、この場を支える役人として働いているという。
この街らしい、とルミアレリナは思う。
そういう者がこの場を支えていることに、価値を見出していた。
そのときだった。
「おや……これはこれは」
滑らかな声が割り込む。
振り返ると、ひとりの男が立っていた。
上質な衣服に身を包み、微笑みを絶やさない。だが、その目はどこか軽薄な印象だった。
「噂の英雄殿が、こんな場所に」
視線が、ルミアレリナをなぞる。
上から下へ、ゆっくりと。
品定めするように。
「思っていたより……ずいぶんと、可憐だ」
ルミアレリナは答える。
「そう見えるのなら、そうなのでしょう」
男はわずかに口角を歪めた。
「なるほど。随分と素直だ」
一歩、距離を詰める。
「戦場での姿は聞いている。だが、こうして着飾っていれば――」
声が、わずかに低くなる。
「少し位の高い酌婦、といったところか」
周囲の空気が、少し冷える。
だが男は気にしない。
「戦場で少しばかり見栄えがいいことで、周囲が像を作り上げ、英雄などと持て囃す」
ルミアレリナは、静かに男を見る。
反論はしない。
ただ、観察している。
この程度の認識を持たれることは、珍しくない。
男はさらに言葉を重ねる。
「暁の血盟、だったか。あれも得体の知れん連中だ。まあ、帝国の侵攻を退けた功績は認めるが……君は、支援者集めの宣伝ために遣わされたのかな?」
その言葉に、周囲の何人かが眉をひそめた。
だがルミアレリナは、動かない。
男は満足したように頷く。
「功績は認める。私も、幾何かの支援はくれてやってもいい。ただし、私の支援が欲しければ……そうだな、少し、場所を変えて話をしようか」
そのまま、ルミアレリナの腕を取った。
強引に、力を込めて。
ルミアレリナは思考を巡らせる。
(この場での適切な対応は――)
その瞬間。
「お客様、その方は――」
先ほどのスタッフが、間に入った。
穏やかだが、明確な制止。
男の顔から、笑みが消えた。
「下がれ」
短く、吐き捨てる。
「場を弁えろ。海を荒らしていた屑が、今さら何のつもりだ?元海賊風情が、高貴なる席に入り込み、そこで息をしていることも許しがたいというのに」
その言葉は、はっきりとした侮辱だった。
周囲の空気が凍りつく。
スタッフは言葉を飲み込み、視線を落とした。
その姿を見て、ルミアレリナは――
思考を止めた。
そして、顔を上げる。
「高貴なる席……?」
声は静かだった。
だが、次の瞬間。
優雅に揺らめいていたスカートの裾が、瞬時に空を切り裂く。
踏み込みも、溜めもない。
ただ最短の軌道で放たれた一撃。
ルミアレリナの脚が、男の顎を正確に捉える。
音は、ほとんどなかった。
男の体が浮き、次の瞬間には床に転がっていた。
完璧に制御された力。
にわかには立ち上がらせず、床を這わせる一撃。
しかし、大怪我は負わせない。
静寂。
誰も、すぐには状況を理解できなかった。
ルミアレリナは、姿勢を崩さず立っている。
何事もなかったかのように。
「このドレスは、私を縛るために着ているわけじゃない」
ただ、それだけを言った。
男が呻きながら起き上がる。
顔は怒りで歪み、理性を失っていた。
「き、貴様……! 何をしたか分かっているのか!」
叫び、視線を上座へ向ける。
「提督! ご覧になったでしょう! この無礼、断じて許されるものでは――!」
その先に立つのは、メルウィブだった。
静かに、全てを見ていた。
「……確かに、由々しき事態だ」
低い声。
男の顔に、安堵が広がる。
「そうだろう! ならば即刻――」
「英雄にも、そして正しく職務を果たした者にも、無礼を重ねたのは誰だ」
言葉が、断ち切る。
男の声が止まる。
メルウィブの視線は、揺るがない。
「この場は、リムサ・ロミンサの威信を示す場だ」
一歩、前に出る。
「その秩序を乱した責は、軽くない」
静かに告げる。
「退場していただこう」
「……なっ」
言葉を失う男。
衛兵が迷いなく動き、その身を拘束する。
ざわめきが戻る中、メルウィブはルミアレリナへと視線を向けた。
泰然とした声。
「礼は不要だ。これは、この場の問題だ」
そして、少しだけ目を細める。
「だが、興味深い……あなたは、他の暁の者とは違う」
言葉を選ぶように続ける。
「国のために動く者とも、組織のために動く者とも違う」
短い間。
「では、何のために動く?」
問いは、真っ直ぐだった。
ルミアレリナは少しだけ考え、
「この世界を、知りたいから」
そう答えた。
メルウィブは、静かに頷いた。
「……なるほど」
それ以上は、何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
数日後。
エレナの店で、ルミアレリナは再び鏡の前に立っていた。
同じ装い。
同じ姿。
だが、少しだけ見え方が違う。
「この姿も、私の一部……でも、全部じゃない」
ぽつりと呟く。
エレナが、後ろから微笑む。
「うん、それでいいのよ」
優しい声。
「綺麗なミアも、強いミアも、頭のいいミアも、不器用なミアも……全部、あなた。どれか一つじゃなくていいの」
ルミアレリナは、静かに、小さく頷く。
エレナは、少しだけ表情を変える。
「でも、理由はどうあれ、貴族を蹴り飛ばしたこと……ミンフィリアには、ちゃんと謝っておきなさいね」
そして、言葉を続け、
「それでもし、怒られたら……」
優し気な表情に戻り。
「ここに戻ってきなさい。カルと一緒に、待ってるから」
ルミアレリナは一瞬だけ目を伏せ、
「うん」
と答えた。
エレナは、くすっと笑って言う。
「カルだったら、きっと、ハイキック一発じゃ済まなかったわね?」
連れられて、ルミアレリナも笑う。
鏡の中の自分は、変わらず整っていた。
今は、それが自分の一部であることを、理解していた。
だが、すべてではない。
どれもが、ルミアレリナ・フィンネスだった。
***この創作について***
『装いは、物語を連れてくる ~紡の章~』
蒼天のイシュガルド時点までの時間軸で、一人の冒険者の歩みを中心に、オムニバス形式で描いています。
一部、ChatGPTを使用しています。
↓キャラクター紹介
https://ameblo.jp/momongapeach/entry-12962058428.html
↓エピソード紹介
https://ameblo.jp/momongapeach/entry-12962180205.html
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ウインドウズ11で動かなくなったPhotoshopCS2、無理やり動かしてまだまだ現役です。
ルミアレリナ・フィンネス(愛称:ミア)
主人公である、若き冒険者
冷静沈着でマイペース。
普段は目立たないが、いざという時に圧倒的な存在感を放つ。
事情により、子供時代は男の子として育てられた。
人との接し方は不器用で、人に頼るのも苦手。
エレナ・ウィンフォーディア
服飾店アトリエ・ウィンフォーディアの店主。
服の仕立ての腕は一級品で、美容の意識も高い。
穏やかで面倒見の良いお姉さん的存在。
ルミアレリナ、カラディアと仲がいい。
カラディア・ハーウッド(愛称:カル)
ルミアレリナに並び立つ名声の、気鋭の冒険者。
容姿端麗で自信家。
ルミアレリナに対して強い対抗心を抱いている。