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Yukito Nekomiya

Alexander (Gaia)

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小説: Mirage Family (4)

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漆黒5.0ネタバレしかないので、未クリアの方は閲覧注意。
あと、救いがどこにもない話なので、そういうのが苦手な方もご注意ください。


1話

2話

3話

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 最後の『娘』はユールモア、廃船街の幼い子供だった。すでに父も母も亡く、棒きれのような体つきで貧民の群れの中にいるのを、軍の人間が発見・保護したのだ。
 ――誰が。何が、悪かったのか。
 ユールモアのために、早く戦場へ向かい力を揮うべきだと説いた上層部か。それを素直に信じ込み、なるべく早く、できればすぐにでも行こうと決めてしまった彼女の、愚かいほどの優しさと意志の強さが悪いのか。
 あるいはそもそも、戦い方を教えることが正しいのか迷いながら、それでも一縷の望みを捨てきれず彼女を娘として育て――挙句、「力を役立てたい」という彼女の申し出を、迷いながらも結局拒否できなかった自分が。
 後にして思えば、分岐点は幾つもあったのだ。目を瞑り見過ごした『危険性』ときちんと向きあっていれば。彼女の申し出をきっぱりと拒否しておけば。少なくとももう少し大人になってからで十分で、今は焦ることはないときちんと諭していれば。……そもそも、彼女に戦い方など教えずにいれば。
 けれど、そのすべてを見逃し、見過ごしてしまった、その結果がこれならば。
(これ、は。正しく『我の罪』の形なのだろう)
 視線の先に居るのは、罪喰いへと成りかかっているモノだ。光への強い耐性ゆえに、いまだ人の身を留めてこそいるものの、それとて時間の問題だ。よほどの奇蹟でも起きない限りは、彼女がもう元に戻ることはない。そして、人の世に都合の良い奇蹟など存在しない。

 『光の巫女』は光の加護を得ており、『光』への強い耐性を持つ。

(耐性……『耐性』、か)
 胸のうちで苦々しくその言葉を繰り返す。
 あくまで彼女が持っているのは、通常の人よりも強い『耐性』であり、『絶対的な防御』などではないのだと、誰もかれも気づいていながら見ないふりをした。何も知らない彼女だけが、幼く柔らかい魂に抱えきれないほどの光を真正面から受け止めようとして、結局、どうしようもなく毀(こわ)れてしまった。
「……巫女よ」
 一歩ずつ、ゆっくりと近寄る。呼びかける声と気配とに気づいたのだろう、うずくまり、肩を丸めて俯いていた少女がゆるゆると顔をあげた。
 付近に他の人間の姿は見えなかった。彼女を護るべき兵たちは、彼女の変調に気づくや否や、彼女を見捨てて我先にとユールモアへ逃げ帰ったのだ。
 わずかな距離を隔てユールモアを望むスプリットハル岬に、彼女ひとり。生ぬるい潮風が吹き付ける中で、いまだ幼い彼女が孤独のうちに何を思ったのか、その胸の内を思うとただただやるせない。
「……ミンフィリア。我が娘よ」
「養父さま……」
 くしゃりと顔をゆがめて、彼女が小さく呟いた。その眦から一筋、とろり白い涙が流れ落ちる。子供らしいふっくらとした滑らかな頬を、悍ましいほどに純粋な白がべっとりと汚していく様は、今の彼女のありさまそのもののようだった。
「……ごめんなサい、養父さマ……」
「謝るな。お前の咎ではない」
「でも、でも、わたし、養父さまの期待に応えラレなかった……!」
「……そうだな」
 柔らかに揺れる草花の影にでも隠れるかのように、小さな体を縮こませている娘の前に膝をつく。白い泥のような涙をかさついた指で拭ってやると、凝った光がエーテルへと還り散った。
「健やかに。幸せに、長く生きてほしいと。……ずっと、そう願っていた」
「ごめんナさい養父さま……! わたしが……わたシが勝手なことをしたから……!」
「……泣くな。お前が背負うべき罪などどこにも無い。罪業の在りかを問うなら、お前を『子供』のままで居させてやれなかった、我ら大人にこそ在るべきなのだ」
 ささやかで、親しい家族に向けて誰もが持つような、当たり前の望み。ただそれだけの願いが、どうしてこんなにも難しいのか。それこそが巫女に課せられた運命、試練だというのなら、彼女に与えられたのは祝福ではなく、むしろ呪いと呼ぶべきものではないか。
 『光の巫女』などと大層な呼び名を付け、祀り上げ、戦いを強いて……『光への耐性を持つだけの、ただの少女』を犠牲にし続けているこの世界は本当に正しいのか。
(……あぁ、今更、だな)
 『彼女たち』を生贄にすると決めたのは先代ユールモア元首であり、亡き父であり、当代のユールモア元首であり、都合よく自分たちは生き延びたいと望む民衆たちであり――そして、他でもない『自分』が決めたことだ。最初はまだ何も知らない子供だった、ただ妹を守りたいだけだった。けれども、その次からは本当に『彼女』のためだけに戦うことを決めたのか、戦わせることを決めたのか。そこに、私欲が混ざってはいなかったか。もう遠い過去は朧で、はっきりとは思い出せない。
 それでも。……それでも。
「ミンフィリア。……此処には、我ら二人しか居らぬ」
「養父、さま……?」
「だから、何か望みがあるなら、誰に憚(はばか)ることなく教えてくれまいか」
 俯いていた顔を上げ、まっすぐに見つめてくる娘にぎこちない苦笑を返す。変容しつつある影響だろう、向けられた双眸は濁った水晶色だ。
「些細なことでも、気宇壮大な夢でも、なんでも構わん」
 幼いうちから優しく聡く、何も強請(ねだ)らぬ無欲な娘だった。廃船街で生きていた貧民の生まれであることを、こちらが思う以上に重く受け止めていたのか。あるいは、自分の預かり知らぬところで、余計な『忠告』でも吹き込む輩が居たのかもしれない。
 年頃の子供が喜びそうな玩具や菓子など、与えれば控えめに喜んで受け取るのに、自分から欲しがることは一度としてなかった。
『ありがとうございます、養父さま。十分頂いてるので大丈夫です』
 足りないものは無いか、欲しいものは無いか……何度尋ねても、そうはにかむように笑みを浮かべながら返されるばかりで。「光の巫女として、将軍の養女として、相応しく在りたい」、そう口癖のように繰り返す彼女を、もどかしく見守るしかできなかった。
 こんなはずではなかった。幸せに、憂いなく過ごさせるために家族となったはずなのに、いつの間にか自分の名が彼女を縛り付ける枷となっていて。かといって、今更突き放すこともできず、何もかもが中途半端なまま此処まで来てしまった。
 けれど、今ならば。
 この場に居るのは自分たちだけだ。変わらず彼女は自分の娘で、家族で……自分は不出来な師で、頼りない父で。
「……お前が『人を喰いたい』と望むのなら、わが身をやろう。老いぼれ一人で足りぬというのなら、近隣から幾らでも拐って来よう」
 どれほど非道と誹られようと構うものか。人に非ず、人に戻れず、けれど異形と成り果てることに抗い続けるただ一人の哀れな『娘』に、ただの父親としてなんでもしてやりたかった。
 ……わかっている。これはただの自己満足だ。それでも、残り僅かな時間を、せめて最大限甘やかしてやりたかった。
「不甲斐ない父ではあるが、お前の最期の望みを、できるだけ叶え、て……」
 とす、と胸元に軽い衝撃が訪れて、声が途切れた。抱きつくように飛び込んできた娘は、俯いたままで表情が見えない。抱きしめ返すべきなのか、背中でも叩いてやるべきなのか。何が正解かわからないまま、おそるおそるぎこちない手つきで少女の頭を撫でてみる。
 そうして、どれほどの沈黙が落ちたのか。
「……養父さマ」
 くぐもった声が、不意に上がった。しがみつくようにこちらの服をつかんだ彼女の小さな手は小刻みに震えているのに、声色だけは何かを飲み込んだような、決然としたものだった。
「とうさまへのお願い、決めまシた。ひとつだけ、かなえてほしイお願いが、できました」
「……なんだ」
 聞くべきではないという直感が、脳裏でうるさい程に警告を鳴らす。こんな声音で告げるものが、『ただの子供の我儘』であるはずがない。
 それでも、この娘が願うことであれば。
「わたしは……この世界が好きです。養父さまと出会えタ、養父さまと一緒に過ごせたこのせかいが」
「……そうか」
「だから……どうか。わたしが、だいすきな世界に害をなすまえに。……とうさまの、てで」


(どんなねがいでも――かなえてやりたいと――)


「わたしを――ころしてください」


 そう、思って。


「……そう、か」
 聞きたくなかった。聞かなければよかった。……けれども、聞かなかったことにすることは、出来なかった。
 幼い娘の、精一杯の矜持なのだ。最後まで誇れる自分でありたいという彼女の願いを、ただ生きていてほしいという己が望みで踏みにじることなど、自分自身赦せるはずもない。
 だから、これは正しく自分の報いなのだ。『彼女が望んだから』という言い訳で、此処まで来てしまった愚かな自分への。
「ほかならぬお前の頼みだ、聞かぬわけにもいくまいな」
 最後にさらりと頭をなでて、わずかに体を離す。名残惜しそうに揺れる娘の眼差しを振り切って、さらに一歩下がる。美しく澄んでいた双眸は、今はもう見る影もない白に染まりきっていた。
 一刻の猶予もないことは、明らかだった。
「……グクマッツ」
 名を呼ぶだけで、小さな龍が一振りの刃へと姿を変じる。手に馴染んでいるはずの武器が、ひどく重く感じられた。
 10年、いや20年若かったなら、もう少し違う『結末』があったかもしれない。もう少しだけ世界に希望を抱いて、もう少しだけ理不尽な運命に挑む気概があった頃の自分なら、みっともなくも全力で足掻き続けていたかもしれない。
 けれども今の自分にはもう。
「……こんなことしかお前にしてやれず、すまんな」
「いえ。いイエとうさま。みんふぃりあ、は、シアわせモノです」
 振るえる手を隠すように、娘の小さな手が服の裾を固く握りしめる。
 怖くなど、あって当然だ。死への恐怖、自分が次第に変容してゆく恐怖。それでも気丈に微笑んでみせる娘に、自分如きがどんな言葉をかけられるというのか。できるのはせめて、彼女の覚悟を苦痛で汚さぬようにするだけだろう。
 細く息を吸い、深く吐き出す。瞬きひとつ、身じろぎひとつ見逃さぬようにまっすぐに、自慢の娘を見る。
 そして。

「あのね、とうさま」

 全霊で振るった刃が、音さえも置き去りにして迅る。

「だいすき」
 
 てん、と跳ね飛んだ小さな首が、鮮血を迸らせながら転がる。ゆっくりと傾く小さな体からあふれ出すのは、白い光などではなく、粘ついた赤だった。一面の赫に染まった世界に、乾いた呟きが零れ落ちる。
「……あぁ、そうか」
 罪喰いを『討伐』したのではなく。
 護りたかった娘を、大事な家族を、自らの手で殺めたのだという事実に、自分の中の根幹がどうしようもなくひしゃげたのだと知った。

* * *

『契約だ』
 ナバスアレンに娘を埋葬した後、生きる気力もなく、ただ死ぬのを待つだけだった自分に、唐突に表れた男はそう宣告した。
 我が身を只の道具へと落とし、一介の刃と為す代わりに、次代の巫女を決して戦に利用しないという契約。罪喰いを意の侭に操るというその能力は確かなもので、巫女の力を必要としない理由は真実の一端でもあった。
 ……事実の全てではないことなど、承知の上だ。罪喰いを操るということは、いわば罪喰いの存在そのものが力の源泉と言ってもいい。巫女によって罪喰いの数を減らされれば、そのまま男にとっての不利益になる。『光の巫女』の存在そのものが、もう不要なのだ。
 それでもいいと思った。福音のようにすら思えた。
 何も考えず。何も感じず。ただ命じられるがままに己の武を用いる日々は、単調で無味乾燥としたもので……けれど奇妙な安堵に包まれた日々だった。
 新たな巫女発見の知らせもない。代替わりした新たなユールモア当主にとって、光の巫女はただの邪魔者にすぎないことを考えると、自分の耳目に入らぬ範囲で『何事か』起きている可能性もあったが、それでも、何も知らなければ虚心に祈る事ができる。自分の預かり知らぬところで、力の意味も運命の重みも知ることなく当たり前の幸せを享受しているのだろうと、無責任に願う事ができる。

 そうした日々は、十年ほどで終わった。

「将軍、あの……どういたしましょうか」
 怯えるように伺う兵士に連れられて、幼い『彼女』は現れた。淡い金の髪に、水晶色の無垢な瞳。頑是ない幼児といっていい年齢なのに、兵士に取り囲まれた状態で不安に泣きわめくでもなく、静かにこちらを見上げている。
 何も変わらない。あの凄惨な出来事は、けれど彼女の魂を損なう事は無かったのだ。瞬間、胸のうちに浮かんだのは、安堵か、喜びか――娘に傷跡ひとつ残すこともできなかったという憎しみか。
 どうでもいいことだ、とすぐに感傷を切り捨てる。
 『彼女』が変わらず『彼女』で在り続けるのなら、自分もまた、やるべきことをやるだけだ。
「……『樹幹の層』へ、丁重にお連れしろ。髪の毛一本でも損なったら、我が手で直々に厳罰をくれてやる」
「は……はっ!」
 家族でなくなったとしても。そこに新しい絆が無くとも。
 『彼女』の望みをかなえてやりたいという思いに嘘はない。
 小さな飴玉を欲しがったのなら、色とりどりの飴玉を。花畑をみたいと言ったなら、両手いっぱいの花束を。真白い地の果てに行きたいと願うなら、何よりも精巧な絵画を。
 何も教えず、何も見せず。世界から切り離して、幼いうちからただただ甘やかして……それでも『彼女』は微睡の中に堕ちない。
 長じた『彼女』が時折遠くを見ていた事は、知っている。『自由』以外のほぼ全てを与えられて贅沢に溺れることもなく、むしろ緩慢に絞殺されるかのような息苦しさを感じている事も、知っている。
 知って、黙殺した。自由も生きる意味も巫女の使命も、全ては無意味なものだ。ただ生きるために生きていてくれれば、それだけで良かったのに。
「……」
 ユールモア、樹幹の層に誂(あつら)えられた、光の巫女のための部屋。年頃の娘らしからぬ簡素な部屋に、そこに居てしかるべき人の姿は無い。突如現れた正体不明の男が、彼女をまんまと連れ去ってしまった。
(必ず、連れ戻す)
 そうして、彼女には『生きて』『見届けて』もらわねばならない。多くの巫女たちの血と想いと屍を糧に辛うじて延命しているこの世界が、それでも抗い切れず滅びゆくその様を。
 どこよりも安全なこの場所で、誰よりも長く生きて。世界の最後を見届ける資格も権利も、在るのは誰よりも世界を愛して、誰よりも世界に踏みにじられた彼女だけのものなのだから。
(……こんどこそ)
 世界の終わりまで護ってみせる――その誓いを果たしてみせよう。

【終】
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