いらっしゃい。よく来たな……ん?お前ミニオンじゃねェな?
どうやってここを見つけたんだ……
まァいい、座れ。「来るもの拒まず」が俺のモットーだ。
ゴホン、あー……ようこそ、ミニオン達が集う酒場「
コマンダーハウス」へ。ご注文は?
俺かい?俺は「
鮫型生体兵器五十四號」だ……今は「
ふかふか」で通してる。どっちでも好きな方で呼んでくれ。
往時は頭が二つ三つある鮫やタコと合体した鮫と一緒に竜巻に乗って敵と戦ったもんだが……まァ、昔の話だ。今は何の因果か、冒険者……俺は「司令」って呼んでるが、その世界を救う旅とやらに随行する傍らでミニオン相手にこんな店を開いてる。全く、鮫生ってのは何があるかわからねェもんだな。
話しすぎちまったな。こんな老いぼれの話なんざ聞いても面白くねェだろ。
とりあえずこのカモミールティーでも飲め。俺の奢りだ……
「あ、あの……すみません」……なんだ、客か?いらっしゃい。見ない顔だな。
「ボク……この間ミニオンになったばっかりで……あの……」ああ、思い出した。前に司令が連れ帰ってきたスモールシェルか。
「そ、そうでス。スモールシェルのモルシェといいまス」そうか。とりあえず座れ。注文は?
「えっ、ええと……じゃあ、アオイソメを」…………ほら、アオイソメだ。塩水はサービスだ。遠慮せずに飲め。
「あ、ありがとうございまス……」……あんた、何か悩みでもあるのか?
「え!……わ、わかるんでスか?」ここに来る奴ってのはだいたいそうなのさ。
何かしら悩みがあって、それを食い物の力でどうにかして忘れたい奴か……俺に吐き出して楽になりたい奴かのどっちかだ。あんたはどっちだい?
「ぼ、ボクは……聞いてもらえるなら、聞いて欲しい、でス……」いいだろう。言ってみろ。
「ボク……なかなか他のミニオンと仲良くなれなくて……カニだから、あんまり陸のミニオン達の話がわからないんでス。ご主人は色んなところに連れて行ってくれるし、森や荒野はとっても綺麗で楽しいのに、やっぱりどうしても海が恋しくなる時があって……ボク、もしかしたらミニオンに向いてないかもって……」なるほどな。つまりあんたは海の仲間が欲しいんだな?
「そうでスね。でもそんなに都合良く海のミニオンなんて……」……あんたの目の前にいるのは何だと思ってるんだ?
「…………ああっ!!サメ!!」もちろんあんたが俺を仲間と認めたくないってんなら話は別だが……
「い、いいんでスか、ボクなんかと……」構わねェさ。コマンダーハウスのモットーは「来るもの拒まず」だ。海の如く全てを受け入れる懐の店……ここはそんな店でありたいからな。あんたが寂しくなったら来るといい。コマンダーハウスの門扉は、コマンダーハウスを求める全ての存在に向けて開かれているべきなんだ。
まァ、そうは言ってもあんまり酒場に入り浸るっていうのも褒められたことじゃねェからな。幸い、新入りのミニオンにアザラシとクラゲがいたはずだ。あんたと出身は違うだろうが、陸の奴らよりは話が合うはずだ。そいつらと少し話をしてみてもいいんじゃねェか?
「そう……でスね。そうしてみまス。ありがとうございまス。もし、仲良くなれなかったら……またこの店に来るので、その時はまた話を聞いてください」ああ。その時は何か一杯奢ってやるよ……
いやあ、すまない。放ったらかしにしちまったな。
ん?今のは何かって?人生相談みたいなもんさ。ミニオンにも悩みってのはあるもんでね、それを聞いてやってるんだ。
この店は俺が司令に呼ばれてない時しか開いてねェが、ありがたいことにそこそこ繁盛してるのさ。
……いや、料理を作ってるのは俺じゃねェ。鮫にそんな器用なことはできねェよ。こいつは司令が調理師を極めようとして作ったやつの余りだ。もちろん使用許可は下りてるぜ。だからお代もいらねェよ。奢りだなんだってのは……アレだ。言ってみたかっただけだ。
……おっと、そんなことを話してたら司令からお呼びがかかっちまった。
今日はここいらで店を閉めるとするか……あんたも良かったらまた来てくれ。楽しかったぜ。じゃあな。