「じゃあ第五星歴の問い12番のFACTを確認するね」
シルフマールはリストからFACTを抜き出した。
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・ナルの祠の水瓶にシャトトの記憶が封じられていた
・水瓶はナル像より古い時代のもの
・水瓶にはマハの古代文字で予言詩が刻まれていた
・ナル像は比較的新しい時代の建造物
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「ここから聞くね。
『水瓶がナル像より古い』というFACTから、水瓶はマハ時代のものだと推測できる。
でも、シャトトがその水瓶に記憶を封じた『場所』はどこだったと思う? マハ? それとも別の場所?」
アリムは少し首を傾げてから、軽い口調で告げる。
「マハだと、私は思ってきたよ。だから水瓶はマハからナルの祠まで移動してきた、というHYPOを立てたんだ」
「そうだね、そのHYPOは資料にも書いてあった。『マハ→ベラフディア→カルン埋没寺院→ナルの祠』という経路ね」
シルフマールは参照資料の移動経路を指でなぞった。
「ここで聞くね。
その移動経路、誰が水瓶を運んだと思う? シャトト本人が生前に仕込んだ? それとも、没後に誰かが運んだ?」
問われて、アリムは虚を突かれた顔をした。
だがすぐに表情を改めて腕を組んで、思考の道筋を辿りながら、ゆっくりと言葉に乗せていく。
「今のところは、誰かの意図ではないと……つまり、マハからベラフディアへ移したのはマハの子孫、そこからカルンへ移したのはベラフディア王室の誰か、そこからナルの祠へ移したのはウルダハもしくはナルザル教団の誰か。
……そこに、シャトトの意図が介在した可能性があるか、ないか」
シルフマールはひとつ頷く。
「そうだね、そこが核心だと思う。
『意図なき移動』なら水瓶はただの骨董品として扱われたことになる。
でも、『意図なき移動』で水瓶が2300年間保存され、かつ『黒魔道士が邂逅する』場所に辿り着いた、とするとそれはかなりの偶然が重なってる。
シャトトの『確信』の根拠として、この偶然の連鎖で十分だと思う?」
アリムは顔を上げて、即座に首を振る。
「もちろん、充分ではない。でも逆に言えば、偶然が重なって『邂逅が成された』は……自分の頭の上に隕石が落ちるレベルの確率しかない荒唐無稽さだ。
それなら、誰かの意図が介在する方が納得いく」
言葉の途中で顔をしかめながらも、アリムは最後に強く言い切った。
「そうだね。
じゃあ『誰かの意図』が介在したとして、聞くね」
シルフマールはメモに「意図的?」と書き添えてから顔を上げた。
「その『誰か』の候補として、シャトト本人以外に考えられる存在はある?」
問われてアリムは視線を卓上に固定し、呟くように言葉を零す。
「シャトト本人というのは、シャトト個人という意味ではなくて、シャトト陣営の、という意味なら……シャトト以外はいないと思うよ。
仮に国家がそれを想定するなら、2300年後の遠い未来なんかよりも翌年の見通しを確実にすることにリソースを割くでしょう」
それから、悪戯っぽく口元に笑みを滲ませながらシルフマールを見て、言葉を続けた。
「後は……かなり穿った考え方だけど、シャドウ・オブ・マハで判明したクェーサルの一派。魔航船アークを封印した53人の魔道士達だね。それらの生き残りや意志を継いだ者、とか」
「面白い候補が出てきた」
シルフマールは目を細めた。
「クェーサル一派について聞くね。
クェーサル一派は『魔航船アークを封印した』という目的があった。
その彼らが『水瓶を保護・移送する』という動機を持つとしたら、どんな理由が考えられる?」
アリムは微かに苦笑してから表情を改め、真面目に考えて言葉を紡いでいく。
「それは、シャトトから遺志を継いだ、とか。滅びゆくマハを、せめてそのアイデンティティでもあった黒魔法だけでも、後世に遺したいと考えた、とか」
シルフマールは頷きながらも問いを重ねていく。
「なるほど。『クェーサル一派がシャトトの遺志を継いで水瓶を保護した』という仮説だね。
ここで一個確認させて。
クェーサル一派とシャトトの間に、接点を示すFACTはある?」
アリムはあっさり首を振った。
「ないね。時代も全然違う。
シャトトは第五星暦800年代の人物で、クェーサルはおそらく第五星暦1500年代頃の人物だから。
700年の開きがある」
「そうだね、接点のFACTがない上に700年の開きがある。
じゃあクェーサル一派経由の仮説は根拠が薄い、ということになる。
整理すると」
シルフマールは伏せた目の端に笑いを滲ませながら、ペンを走らせた。
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・シャトト陣営による意図的な移送:動機はあるがFACTなし
・クェーサル一派による保護:接点のFACTなし、時代も700年ずれ
・意図なき偶然の移動:確率論的に荒唐無稽
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「つまり第五星歴の問い11番と12番の空白は、『水瓶の移送に誰の意図が介在したか、FACTで確認できない』という点で共通してるね」
シルフマールは顔を上げて、アリムを真っすぐに見た。
「ここで聞くね。
この空白、今の段階で『埋めるべき空白』と『埋められない空白』のどちらだと思う?」
アリムは、手の甲に顎を乗せて頬杖をつきながら、シルフマールのメモを眺める。
「埋めるべき空白だけど、今か後かは判断がつかないね。
他のシャトト関連で、この空白に関係しそうなやつはある?」
その言葉に、シルフマールは未解決の問いリストを引き寄せる。
「第五星歴の問い13番——『マハの予言詩の作者と成立時期』が直結してると思う。
予言詩が『誰によって水瓶に刻まれたか』が確定すれば、『誰の意図が介在したか』の空白が埋まる可能性がある。
セットでやる?」
「それもいいけど、今やってるやつって『確信』と『実証実験』の分岐で『確信』側の方向を詰めてるよね。『実証実験』側の方はどうする?」
と、アリムはシルフマールが問い11番の時にメモに走り書きした、「確信」「実証実験」の部分を指で叩いた。
シルフマールは少し眉を下げた。
「そうだね、放置してた。
『実証実験』側——『2300年後の黒魔道士が自身の魔法を継いでいるかを確かめる』という仮説、これは『確信』側と並立するもの?
それとも『確信』があったから『実証実験』を設計した、という従属関係?」
「んー。一応、『実証実験』説は、研究者としての視点で出してみたHYPOだけど、『確信』とは並立はし得るよね……。『実証実験』は目的、『確信』は手段、て感じで」
アリムは軽く眉根を寄せて呟いた。
「待って、逆じゃない?」
シルフマールは軽く手を上げて怪訝そうな顔をした。
「『確信』が目的で『実証実験』が手段、ならわかる。
でも『実証実験が目的で確信が手段』って、どういう意味?」
指摘されて、アリムは小さく首を傾げてシルフマールを見た。
「ああ、紛らわしいよね。
『確信』説は、意図的に全てを準備・配置した手順を言ってる。
つまり、『ここまで準備したんだからその結果を得られるのは当然だよね』という意味の『確信』だった」
「なるほど、整理できた。つまり」
シルフマールは走り書きメモをきちんと書き直した。
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・「実証実験」:シャトトの目的——2300年後に黒魔法が自分のコンセプトを継いでいるか確かめる
・「確信」:その目的のために準備を完璧に整えた結果としての確信
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書き上げたものを眺めてシルフマールは小さく頷いた。
「この二つは並立じゃなくて、『確信を持てるほど周到に準備した実証実験』という一つの話だね。
ここで聞くね。
その『実証実験』として設計されたとすると、イベントバトルでシャトトがヒカセンを試した行為は、実験の『判定』にあたる?」
アリムは身を乗り出して、シルフマールのメモを覗き込んだ。
「ああ、ひとつの話に集約されるんだね。
うん、まさにイベントバトルこそが実証実験の判定だと思って、このHYPOを立てたよ」
「じゃあ綺麗に繋がったね。
第五星歴の問い11番と12番の暫定仮説として置けるものをまとめると……」
小さく息をついたシルフマールは、新しい紙を取り出してペンを走らせた。
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「シャトトは研究者として、2300年後に自身の黒魔法が正しく継承されているかを確かめる実証実験を設計した。
その為に水瓶・記憶・呪文を準備した。
イベントバトルはその判定にあたる。
ただし、水瓶の移送に誰の意図が介在したかはFACTで確認できない空白として残る」
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「これでいい?」
シルフマールの整理メモに目を通したアリムは、首を傾げた。
「その暫定仮説だと、問い12番には一切答えてないことにならないかな?」
その指摘を受けたシルフマールは一瞬止まり、素早くリストに目線を走らせた。
「そうだね、ごめん。
問い12番の核心は『どんな原理で記憶が封じられ、2300年間保存され得たか』だった。
そっちは全く触れてなかった。
『記憶を封じる原理』について、FACTや手がかりになりそうなものはある?」
シルフマールは姿勢を正して、改めてアリムに問いを投げかけた。
【第16話・完】
※本作品の一部には、AI(Claude, Anthropic)との対話ログを使用しています。ログの使用は、Anthropicの利用規約に基づいています。