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Juliette Blancheneige

The Meat Shield

Alexander [Gaia]

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『Mon étoile』(5)その四

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5-4

 ナナモ新門。西ザナラーンへ向かう起点となるその場所が、彼らの集合場所だった。
 ヤヤカたち『パスファインダーズ』の面々が到着したとき、冒険者ギルドの運搬役と荷運び人たちが、用意されたキャリッジや鳥車へ資材の運搬を始めたところだった。
 ギードたちの姿はまだ見えなかった。
 だが。
 ヤヤカたちの知らない冒険者風の青年が、手持ち無沙汰で立ち尽くしていた。
 青年はサンシーカーで、鮮やかな赤のローブを着て、腰に大きな本を括りつけている。巴術士だろう。
「あん? 誰だありゃ」
 メイナードの声に顔を向けた青年は、パスファインダーズの五人をまじまじと眺めた後、ヤヤカを見て合点がいったような表情を浮かべ、近寄ってきた。
「もしかして、ヤヤカさんっスか?」
「そうだけど――」
「あーよかった。俺、ハ・ゾン・ティアっつー、ギード――さん、だったっけな……に雇われた学者っス」
「学者!?」
 ヤヤカは驚きの声を上げた。冒険者の職業としての学者の成立は第五星歴、『魔大戦』の最中のことだ。自身の研究している時代に生まれたその職業に、ヤヤカが食いつかないわけがなかった。そもそも学者は数が少ない。今までヤヤカは会ったこともなかったのだ。
「海洋都市ニームの失われた軍学者! 癒しの技と守護の障壁を操る癒し手! どうやってなったの!? 誰に教わったの!?」
「ヤヤカさんヤヤカさん、彼が面食らってますよ」
 興奮したヤヤカをリリが引き留める。
「はあ、まーその辺は口止めされてるんで言えねーっス」
 えええ、とあからさまに落胆するヤヤカ。
 一方、メイナードとノノノはその後ろで揃って舌打ちをしていた。
「ここで癒し手追加とはな。隙を失くしてきやがった」
「問題ない。まとめて焼く。メイナードはヒーラーから潰せ」
「言われるまでもねえ」
「……聞こえてますよ」
 テオドールが苦笑してたしなめた。当のハ・ゾンはリリと会話していたため、彼に聞こえたかは分からない。
「そのうち来ますかね?」
「ええ、もうすぐ集合時刻なので、おそらくは。――それよりハ・ゾンさん。失礼ながら、あの人たちと組むことに抵抗はなかったのですか? グランドカンパニーに登録されていないような人たちですが」
 リリの問いに、ハ・ゾンはこともなげに答えた。
「いやー、俺は報酬分仕事するコト以外、アンタたちにもアノ人たちにも興味ないっスよ。さっさと行って、さっさと済ませましょうよ」
 そう言って、ハ・ゾンはリリの元を離れた。コロセウムの方角から、彼の雇い主であるギードたちが姿を現したからだ。
「……どうしよう。止めるべき?」
 困惑した顔でリリがメイナードに訊いた。対して、メイナードの答えは簡潔だった。
「ほっとけよ。少なくとも仕事を受けたのはテメーの意思だろ。だったら帳尻合わせんのはアイツと、アイツを雇った連中のすることだ」
「そうだけど……」
 ギードたちが到着するのとほぼ同時に、運送部隊の準備も整った。一同は速やかに、ベスパーベイへと向かう。

 ベスパーベイからフェリーでリムサ・ロミンサへ。そこから、雇った商船を使い、ヤフェーム湿原へ。毎回輸送を引き受けてくれる船長とも顔なじみだ。
 道中はさしたるトラブルはなかった。
 ヤヤカたちが危惧していたイーヴの暴走や、ムムシュのちょっかいもなかった。逆にギードは「現地に着くまでは、幽霊船でも出ない限りは奥方をガードする必要もなかろう」と言い、ヤヤカの警護さえしなかった。

 一行は早朝にヤフェーム湿原に到着した。何度も到着しているパスファインダーズの面々と違い、初めて上陸したギードらは、かなり興味深げなようだった。あのイーヴでさえもきょろきょろと周囲を見渡している。
 相変わらずの曇天だった。
 途中霧雨になったが、幸いなことに豪雨には見舞われなかった。
 拠点までの行程が順調だったため、資材を配置した段階でもまだ時間も体力も余裕がある。一行は協議し――といってもパスファインダーズの面々のみであるが――このまま地下の遺構へと向かうことを決めた。
 早く行って、研究の成果を試したい。
 ヤヤカは逸る気持ちを懸命に抑えた。
 遺構へ向かう道中から、ギードたちの出番となる。ヤヤカ以外のパスファインダーズのメンバーが前を行き、ギードら四人がヤヤカの護衛と後方警戒を務めた。
 前回のヤヤカが落ちた“穴”は、草木が折り重なって再び塞がれかかっていた。それを撤去し、近くの木に括りつけた縄梯子を地下まで垂らす。
 地下の川沿いに進む最中に、ここを棲み処とする蛇の襲撃を受けた。銀泪湖畔のレイクコブラを一回り小さくしたような蛇で、縄張りを侵す相手に集団で襲い掛かる習性を持つようだ。かなりの数の蛇が、一行へ襲い掛かってきた。
 戦闘が始まった。
 ギードたちに護られながら、ヤヤカはテオドールたちの戦いを見た。以前とは明らかに違う。各々が試練を乗り越えた結果と言えるだろう。対処に余裕さえ感じられた。
 特に目覚ましかったのは、メイナードとリリだ。跳躍し、落下と同時に攻撃を繰り出すメイナードを見て、ギードが唸る。
「まさか……竜騎士だと……?」
 ハ・ゾンがリリを見て言った。
「あっちの子は白魔道士っスね」
「……ぽいな」
 ムムショが同意する。蛇を屠りながらもリリのほうを見続けているイーヴが、こちらに聞こえるほどの声で“独り言”を発していた。
「素晴らしい……最高だ……! アレを、裂いたら……どんな声で……哭くのか……ああ……」
 最後のイーヴの声はともかく、少なくともギードとムムショはテオドールたちを侮ることはやめたようだった。仲間の実力が評価されるのは嬉しい反面、それはギードたちが油断しないということだ。未だギードたちが自分たちと敵対する可能性を捨てきれないヤヤカは、ギードたちの脅威度が増していく気がした。
 一方のギードらも、圧倒的な力で蛇たちを殺戮していた。
 戦士であるギードが巨大な斧を振るい、ムムショの火炎魔法と共に、数十体の蛇をまとめて薙ぎ払う。生き残った蛇をイーヴが速やかに処理する。雇われの癒し手であるハ・ゾン・ティアが、気楽そうに言った。
「楽でいいっスね」
 彼は、己の使い魔であるフェアリーを呼び出してさえいない。時折回復と障壁を張る魔法を唱えるのみで、攻撃をほとんどしていなかった。だが、唱える魔法の詠唱速度は異常なほどに速かった。その軽薄そうな態度とは裏腹に、相当な実力を隠し持っているようだ。
 結局ほとんど損耗することなく、二組の冒険者チームは蛇を退けた。以後、地下水路での遭遇は無く、ヤヤカたちは遺構のある地下空間へと辿り着いた。
 淡く光る花たちに照らされたそこは、前回の戦いの痕跡ももう残っていない。踏み荒らされ焼き払われた花々も、数か月の間に再び生い茂っていた。
「こんな地下空間なのに……地上と同じ、いえ、それ以上の早さかも」
「……エーテル濃度が強い。地属性と水属性のクリスタルが埋もれているかも」
 ノノノが周囲を見渡しながら言う。前回ここに来たときは十分に検証する時間が取れなかったが、それも今後の調査で明らかにしていかなければならないだろう。
「あれが、件の『扉』のある洞窟か」
 ギードが、アーチ状の入り口を指す。ヤヤカが頷く。
「ええ。あの中に足を踏み入れたことが、妖異出現の引き金になったと思っているわ」
「さて――行こうぜ」
 戦意に滾る不敵な笑みで、メイナードが槍を肩に担ぐ。
「あ、待って」
 ヤヤカが遮る。おいィ、と不満の声を上げるメイナードに構わず、ヤヤカは持参した大きめの麻袋を広げた。幅広で頑丈そうな紐が付いている。ララフェルでは確実に引きずるサイズだ。
「テオ、これを広げて持っていて」
「分かりました」
 広げた麻袋の中に、シャベルを使って土ごと光る花を移す。十株ほどを移すと、ヤヤカはテオドールに言った。
「じゃあこれを、坂の上に。戦闘に巻き込まれないようにしたいの」
「はい。それがいいでしょうね。――お待ちを」
 テオドールが麻袋を肩から提げ、この中洲へ来るときに使った坂を上る。上がり切った場所に麻袋を置き、テオドールが戻った。
「お待たせしました。……では、行きましょうか」
 パスファインダーズの面々が頷き、それぞれの武器を構えた。ヤヤカを擁するギードたちも同様に抜刀すると、テオドールたちとやや間を開けて、テオドールたちに背後を見せるようにして立った。罠が発動した後に出現するペルソナは、その場に存在する誰かの背後に出現する。つまり、ギードらの背後に出現するかもしれない。その敵視をテオドールが取りやすくするための配置だった。
「こちらはいつでもいい。やってくれ」
 ギードに促され、テオドールが応えた。
「行きます……!」
 その足が、入り口を踏み越える。同時に、穴の奥から激しい光が発せられ――
 
 真っ白い顔が付いた人間大の黒い襤褸布、つまりはペルソナ種の妖異が、二体現れた。
 
「二体……!?」
 ペルソナは、ノノノの背後とギードの背後、計二体が同時に出現した。動揺しつつも、テオドールはギードの背後に出現したペルソナに盾を投げつけ、ノノノと場所をスイッチしながらフラッシュを唱えた。
 二体のペルソナが、テオドールへと襲い掛かる。だが、その程度ではテオドールは崩れない。仲間たちが呼応し、一体へ火力を集中させる。ほどなく一体が消滅した。
「任せても問題なかろう。行くぞ」
 十分に殲滅しきれると見たギードが、洞窟へと向かう。この間に侵入し、ヤヤカが『扉』の言葉を唱え、鍵を解除すれば終わりだ。
 その足が、入り口を踏み越える。
 
 同時に、穴の奥から激しい光が発せられ――

「なんだと!?」
 ギードの正面、つまりは穴の入り口に、大柄の妖異が出現していた。牛のような湾曲した角を持つ、極端に前屈した体躯を持つ妖異。タウルスと呼ばれる種類の妖異だった。
「ちぃっ……!」
 咄嗟に下がりながら、ギードは斧を投擲した。敵視を奪うと一旦穴から離れる。そうしなければ、仲間たちがタウルスの背後を衝けないからだ。
 しかし、変化はそれだけではなかった。
 中洲全体に十は下らない数のペルソナと、多くの目玉を持つ軟体の妖異――ヘクトアイズが数体出現した。それらが一斉に、テオドールとギード、二人の盾役めがけて殺到した。
「これは……!」
「フッ、話が違うな。まあいい。すべて噛み砕くまでだ!」
 ギードが吠える。まるで呼応するかのように吠えたタウルスが、魔力を周囲に放射する。同時にペルソナとヘクトアイズも範囲魔法を放った。
 広範囲に亘る攻撃魔法の嵐。
 それは当然、彼らと共にいたヤヤカへも降り注ぎ――
「ヤヤカさん!!」
 自身も窮地に立ちながら、テオドールがヤヤカの危機を悟り叫ぶ。――が。
「おー、危なかったスね」
 抱えたヤヤカを地面に下ろすと、ハ・ゾンが笑った。間一髪のところで、サンシーカーの学者はヤヤカを抱えて後退していた。
「ありがとう……!」
「仕事っスから。……けど」
 軍学書を開く。光が渦を巻き、魔紋を空間に描き出す。光とともに、蝶のような翅をもつ小さい人型の魔法生物――フェアリーが姿を現した。
「楽しくなってきたねえ」
「――え」
 その瞬間にハ・ゾンが浮かべた笑みは、ヤヤカだけしか見ていない。
 目を細め、口角を上げた笑み。愉悦と、酷薄さを同居させた笑み。軽薄で淡白な青年と思っていた彼の意外な笑い方に、ヤヤカは息を呑んだ。
 フェアリーが舞う。ハ・ゾンの障壁が光と共にギードたちを包む。
 瞬く間に、チームは立て直されていった。
「すごい……」
 徐々に戦局は冒険者有利に傾いていた。だが、以前よりもはるかに速いスピードで洞窟の奥は光を放ち、次なる妖異が召喚されてくる。
 首無し騎士――デュラハン種の妖異が召喚されるに及び、埒が明かないと踏んだギードがテオドールに叫んだ。
「色男! お前が奥方をエスコートして、通路へ走れ!」
「! ――かまいませんが、それは護衛チーム、あなたがたの仕事では!」
「この状況で言っていられるか! それにな、今の『扉』にどんな罠があるか知れたものではない! 未知の罠を踏むのはそちらの仕事だ! 花を持たせてやる代わりに、お前以外の戦力は妖異殲滅に手を貸せ!」
 利己的ともいえるギードの言い分だったが、筋は通っているとテオドールは判断した。
「いいぜ! 行ってこいよ!」
「気を付けて!」
「ヤヤカを怪我させたら口の中にフレアを突っ込む!」
 仲間たちの声を受けて、テオドールは頷いた。
「引き受けましょう!」
 言いながら、テオドールはすでに穴の入り口から離れた位置に移動しているギードたちのほうへ向かう。テオドールを追い、妖異たちがギードと戦う妖異たちの群れと一つの集団になる。
「おおッ!!」
 絶叫し、ギードが斧を迸らせる。同時に、テオドールは敵視を移す技を用い、自身に向けられている敵対心の一部をギードへと向けるよう仕掛けた。結果、妖異たちは大挙してギードへと襲い掛かかる。
「ヤヤカさん、こちらへ!!」
 妖異の群れの中を駆け抜けたテオドールが、そのまま走り込んでヤヤカを抱き上げた。
「わ……!」
 ヤヤカは驚いたが、それもほんのわずかのことだ。ここが、テオドールの胸が、世界で一番安全な場所だと知っているから。
 テオドールの足が、入り口を踏み越える。同時に穴の奥から激しい光が発せられたが、幸いなことに眼前に妖異は出現しなかった。まばゆい光が消えたあと、二人は『扉』の前にいた。
 扉には、中央に人の顔を模した仮面が付いている。額には、緑色に輝く石が嵌っていた。
 そして。
 扉には、文字が光っている。エーテルを帯びた、魔力を込めた言葉にのみ反応する『錠』だ。『扉』に刻まれた文字を正しい発音とエーテル振動を以て唱えたとき、『錠』は解除される。そのはずだ。
 テオドールに下ろされたヤヤカは、扉の前、仮面と正対した。
「――テオ」
「はい」
 すぐ後ろに、彼の気配がある。それを感じて、ヤヤカの気持ちは落ち着いた。
「見ててね」
「勿論です」
 その声を聴きながら、ヤヤカは集中する。呪文を唱えるときと同じだ。自らの意思を乗せて、世界へエーテルの振動を放つ。世界を変える意志。書き換える決意。それが魔法だ。
 世界へ刻む。
 私の意志を。
 全身全霊を込めて。
 ヤヤカは、鍵となる言葉を口にした。
 
『未来は、力づくで奪い取るもの』

 それが扉に刻まれた言葉だ。
 なぜそれが刻まれているのか、この言葉にどんな意味が込められているのか、ヤヤカは知らない。
 けれど。
 そう唱えたとき、ヤヤカの心は震えた。
 未来を――奪い取る。
 それを自分はできているだろうか?
 問い続けることはできなかった。
 なぜなら、まばゆい光が――今まで扉から発せられた光をはるかに凌ぐ烈光が、彼女の視界を灼いたからだ。

 光は、地下空間全ての地面から発せられた。
 パスファインダーズの仲間も、ギードたちも、妖異たちさえもその光に包まれた。
 激しく圧倒的な光は、十数秒の間、地下空間を満たし――唐突に消えた。

 そして。
 光が消えた地下空間には、誰もいなかった。
 
 誰も、いなかった。


§


 第四八五六魔法脳、時間凍結を解除。
 適合者試験を再開する。

 第八六二九補助脳、第八六三〇補助脳の時間凍結を解除。

 適合試験者の走査を開始。

 第八六二九補助脳、意見具申。
 アムダプールの白魔道士と推察される魔脈を確認。敵対国の魔道士は排除すべき。

 第四八五六魔法脳、回答。
 否。量産試験型の適合実験の前では些細なことである。適合者の発見は国益なり。

 第八六三〇補助脳、意見具申。
 クェーサル一党の魔脈に連なるものを確認。敵対派閥の魔道士は排除すべき。

 第四八五六魔法脳、回答。
 否。量産試験型の適合実験の前では些細なことである。適合者の発見は国益なり。

 第八六二九補助脳、微弱ながら我らが魔脈に連なる者を発見。
 第八六三〇補助脳、同存在を検証。第八六二九補助脳の走査結果を支持。

 第四八五六魔法脳、同存在を確認。重要監視対象とする。

 圧縮世界へ九体の移動を実行。

 ――実験開始。

(五章その五に続く)
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