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やぁ、
はるか、
まことは元気かい?
俺もやっと結婚に踏み切ることにしたよ。
━━中略━━
そうそう、
まことと約束してた『
ギムレット』マスターしたからグリダニアに帰ったら飲ませてやんよ!?
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はるちゃんのポッケからこぼれた花柄の手紙を嫉妬心全開で、
はるちゃんが闇のクリスタルタワーに乗り込んでる隙にガッツリ読んで後悔した。
「
誰だっけ?基、こんな約束したっけ?」
私がその約束をすっかり忘れていたのは、お酒の席だったこともあるけれど、ありえないと思ってハートのカギを開けなかったから。
手紙の差出人は、リムサ・ロミンサの溺れた海豚亭でマスターをしてる
バデロンさん。
調理師ギルドを兼ねるレストラン『ビスマルク』の店長に
「お前は料理のセンスが
ミジンコもねぇな」
ってドやされてた頃からお世話になってて。
「ウチは安酒は出すが、酔えねぇ酒は出さない主義なんだ。」凹んでた私にはカッコ良く聞こえたのか、気付けば常連客に顔を覚えられてて。
あれから2度目の春。
桜の花びらと、花粉が舞う中、
バデロンさんの結婚の決意を知らせる便りが
はるちゃんに届き、その約束をイヤでも思い出すことになっちゃって。
バデロンさんが私にホの字だと聞いたのは初対面から随分月日が経ってのこと。
パーティーの夜、口に含んだボムの灰に火を点けて
「 I love you 」って叫びながら炎を噴いたのは見たけれど、まさか私に言ってたなんて夢にも思わなかったから。
今はもう
右の鼻の穴から牛乳をすすり
左の鼻の穴からコーヒーをすすり
目からカフェオレを出してくれたのが炎を噴いた夜と同じ夜だったのかどうかさえ思い出せないけれど。
あのカフェオレを私が飲まなかったのは
バデロンさんのことが嫌いだったからじゃなくて目から出たカフェオレを飲んだ経験がなかったからで。
「ギムレットも目から出して」
ってダダをこねたのは
バデロンさんのことが嫌いだったからじゃなくて、ほんの思い付きだった訳で。
元来、私は他人の鼻を経由して目から滴るギムレットをカクテルグラスで受け止めなきゃならない程お酒が好きな訳じゃない。
光速まばたきしながらギムレットを滴らせている人の直下で口を開けて目を閉じるほど人生にハラハラ感を求めてもいない。
第一そんな経緯のギムレットならレノックスのセリフもハードボイルドにはならない。
「ギムレットには早すぎる」
じゃなくって
「ギムレットがそんなところから出てくるなんて」
が精一杯じゃないかな。
でもライムジュースはともかく、ジンを鼻からすすって目から出すには一体どれほどの修練を積めば可能なのか。
何リットルの涙を流せば平気な顔で粘膜をコントロールできるのか。
・・・・・
はるちゃんと共通の大切な古い友人でもあり、彼の人となりを考えれば無下に断るのも心が痛い。
私のハートのページの「いい人」の項目には彼の功績を称える文言がところ狭しと書き綴られている。
飲み会の楽しさとは何たるか
羞恥心の先にある桃源郷とは如何なる土地か
わが身を捨てた時に現れる瀬に掴まるタイミング……等々、身体を張った人生訓は今でも私の魂(ソウル)を支える道標(バイブル)だ。
小悪魔の私が天使の私に提案してきた。
「ひとつ賭けをしようじゃないか」
天使の私は小悪魔の私に賛成した。
「おもしろい!乗った」
表が出れば喜んで 目ギムレット をいただく
裏が出れば謹んで 目ギムレット を断る私は親指の爪にアラグ金貨を乗っけて腹をくくり
「武士に二言は無い」
と小声で唱える。
「ハイヤァー!」
高速回転しながら落ちてきた旧アラグ帝国のお偉いさんの顔を左手の甲で受け止め右手で押さえ込む。
そぉ~っと右手をどかして薄目でチラっと見てからいつの間にか巻き込まれた私本体がポツリと呟く。
うん。
そもそも私は武士じゃない。