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レオニア王国記 第二期 <本編 十六話> 急雷走る

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レオニア王国記 第二期 もくじ

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▷第二期 十六話 急雷走る 
                     

 <<オルゼオン大陸地図



 その日は朝から、霧雨が降っていた。
 執務室で書面にサインをしていたレオニダス王の側で、インク壺に液を補充したブラマールは、扉の外へ誰かが駆けてきて番兵と何か揉めている声を聞いた。軽く一礼をして、そちらへ向かう。

「どうしたのです、そんなに慌てて」

 一度部屋の外に出たブラマールは、慌てた様子のメイドから事情を聞くとすぐさま戻り、書類の精査を続けるレオニダス王へ、低い声で伝えた。

「アルティ姫がお見えになりました。従者とお二人だけで、どちらも少し怪我をなさっているらしく、現在、ここツインレオの医務室にて治療を受けております」
「何───」

 王は肘置きに手を乗せ、ただならぬ事態に表情を固くしたブラマールを見た。ブラマールは整った髭の奥から低く抑えた声で続ける。

「会話には問題ないそうですが、”詳しいことは王にしか話せない”と。謁見の用意をしますか?」
「わかった。医務室でいい。すぐに向かおう───イルミナにも伝令を」

 レオニダス王は立ち上がり、部屋を出る。ブラマールが鍵をかける音を背に、王は早足で城の回廊を急いだ。



 医務室には、憔悴した様子のアルティ姫がベッドで飲み物を手にしており、付き添いの御殿医と、助手やメイドが慌ただしく動いていた。隣のベッドでは、姫の従者だろうアウラの女性が眠っている。
 王の到着にはっとして、険しかった表情のアルティが思わず声を上げた。

「王様…!」

 レオニダス王はしっかりと頷き、手振りで人払いを指示する。御殿医と、数人いたメイドがばたばたと医務室を出て、ブラマールが戸口を守っているのを確認した。ベッドから起きあがろうとするアルティを制しながら、レオニダス王は横にあった木椅子に腰掛けた。
 アルティは話し出そうとして息を詰め、意を決したように向き直った。

「お父様が───シルベウス王が、討たれましたの。クーデターですの。首謀者は、────」

 さすがに口憚られたのか、再度口ごもったところでイルミナ妃が到着し、緊迫した空気を悟ってレオニダス王のそばに並ぶ。レオニダス王はそれに視線を送ってから、頷き、アルティ姫の毛布の上に投げ出された手へと、手のひらを晒した。

「視せてくれるか」

 短い確認。
 レオニダス王とイルミナ妃は、他者の心を視ることができるという。

 ここに逃げてくるまで火炎魔法を酷使し、エーテルの本流に耐えきれず裂けた指先。また、隣で眠る侍女のエルナトによる氷魔法との共闘で、あちこちに負った火傷に、片腕は包帯で手厚く巻かれている。返答を待ちながら、イルミナ妃はベッドに浅く腰をかけ、アルティの腕に手をかざすと、柔らかな緑の光が包む。
 詠唱を要しない高度な回復魔法にアルティは狼狽え、恐縮した。

「そんな、これしき、王妃様からの御手当には及びませんの!」

 イルミナ妃は静かに微笑み、しばらくして手を引くと、そこにあった火傷あとは消えていた。小さく感嘆の息をつくアルティにも急かすようなことはせず、心痛な面持ちでアルティの瞳を見つめる。治療の光そのままの翠の目に、アルティは心の落ち着きを感じた。
 未だに信じがたいあの光景を余さず伝えるためには、確かに今の、憔悴し、動揺も治りきらない自分の言葉では不足だ。自分だけではない、タイガルドの未来のためにも、二人の力を頼るほかない────

 アルティは無言のまま、レオニダス王の手に自らの手を重ねた。承認を得て、イルミナ妃もさらに半身を乗り出し、もう片方のアルティの手を取った。

 三人は手を繋いだ輪の形となり、目配せをしあって、瞳を閉じた。


 ***


 ────数刻前。
 アルティは、玉座のタイガルド国王・父シルベウスと対話を重ねていた。

 エネルギー事情の改善によって、親子の関係も和らいだかに思えたのもひと時。一難片付けば、また次の一難。今日も思い出したように跡継ぎをもうけろと小言がはじまった。

「たしかにお前の黒魔法研究館は、今や我が国に欠かせないものとなった。とはいえこれ以上に政への権力を得るのは、さすがに急ぎすぎじゃ。それはそれ、これはこれ。旧来の手段として、お前の婚姻で他国との関係増強も進めるべきじゃと」

「わかってますの。ですけどお父様、自国の不安定を他国に頼った婚姻など、弱みを明け渡すようなもの。急ぎすぎなのはお父様の方なのじゃありませんこと?」

 一度休戦。壇上の玉座ではシルベウスの杯に、宰相ベルガスが灼をし、アルティには謁見室へ持ち込んだサイドテーブルで、侍女のエルナトが紅茶を提している。アルティがカップを空にすると、エルが三度目のおかわりを注ごうと、ポットを持ち上げた。

「もう結構ですの。エル、先に下がって、午後の準備をしておいての」

 涼やかな美貌の侍女は、静かに礼をして、従者が出入りするための横扉から出て行った。

「あの侍女が、例の」
「ですの。研究はもう少しで大成────きっとお父様にも、待っただけの甲斐あるものをご覧に入れられますのよ!それをご覧いただき、なんでもすわ婚姻と急かすのは、いい加減おやめになっていただきたいですの」

 ふふん、と少しだけ得意げに息巻く。
 タイガルドの資源枯渇問題を一気に解消に導いた、アルティ姫直轄の『黒魔法研究館』。
 次の課題は、研究を続けていたものの後回しになっていた、古代魔法メテオの解読及び再現法の確立である。侍女であるエルナトも、稀有な黒魔法、しかも火炎魔法を得意とするアルティと対をなす氷魔法の使い手であり、その協力を経て、研究は飛躍的に進んだ。
 隣接する魔女の森から得た古文書に記された強力な黒魔法。もしもその強大な力の解放を成し遂げたならば、対外的なタイガルドの国力誇示が叶い、未だ緊張関係にある帝国への抑止力となるのだ。

 愛娘の活躍と、明るい未来を眩しく眺めるシルベウス王。
 そんないつもの昼下がり…のはずであった。

 謁見室の廊下に、けたたましい数の足音。扉を守っているはずの番兵の静止は聞こえず、両開きの堅牢な戸は、かつて聞いたことのない乱暴さで開け放たれた。

「なんじゃ、ぬしら──」「一体何ですの!」

 二人がどちらとなくあげた声をはばみ、押し入ってきた一団から、高らかに宣誓がなされる。

「タイガルド王、シルベウス!民衆を顧みず他国へ利権を譲り渡す貴殿ら一族に、もはやこの国難は見えじ!王権を我らが手に──お覚悟!」
「何っ、アルティよ、逃げ────」

 事態を察知し、武器を構えようとしたアルティの背後で声を荒げた父王は、その警告を最後まで発することができなかった。
 彼の体は、長年そばに控えていた宰相ベルガスによって刺し貫かれていた。

「お父様!」

 悲鳴まじりに呼びかけながらも、アルティは簡略魔法で父を撃ったベルガスを吹き飛ばし一目散に駆け寄る。騒ぎに、従者の横扉からエルナトが戻り、迫る徒党を目撃して即座に冷気を舞い上がらせた。

「アルティ様!────おのれ、留まりなさい……フリーズ!」

 正面扉と玉座の間に、瞬間的な氷の壁が立つ。わずかではあるが時間稼ぎにはなるだろう。アルティは壁際のベルガスを一瞥した。気を失っているらしい。それよりも今は。

「お父様、お父様……なんてこと、」

 体を支えれば、その手にべっとりと血がついた。取り出した大剣を支えに、苦悶の表情で耐える父王は、今また口から泡混じりの鮮血を吐き出した。

「ゆけ、アルティ……逃げろ、そして、この国を…守るのじゃ」
「いや、嫌ですの、」
「儂のかわいいわがまま娘よ。最後の頼みくらい聞かんか」

 言い含めるも、それでも…と縋るアルティの手をなんとか引き剥がす。もはや治療で留められる命ではない事は明白だった。
 もう一度、アルティのルビー色を湛えた目を見つめる。

 徒党の打撃や怒号が響き、氷の壁に大きな亀裂が入る。

 アルティは瞳を伏せ、「…わかりましたの」と呟くと、身を裂く思いで踵を返した。

「エル!こちらですの!」

 玉座を離れ、カーテン横の壁に立つアルティの呼びかけに、エルは半身翻して続く。アルティが、シルベウス王の血で真っ赤に染まった腕を掲げ、呪文を唱えると、突如壁が動いて、ひと一人がやっと通れる大きさの扉穴が開く。
 くぐる瞬間、シルベウスの姿をもう一度だけ見る。
 昔のままの瞳がこちらを見て、わずかに頷いてみせた───気がして、何も言えず、アルティは暗い隠し通路へと足を踏み出した。


 ***


 アルティとエルナトの姿が壁に消えたことを見守って、シルベウス王は、玉座の前で再び立ち上がった。
 逃すな、追え、と、数秒遅れて反乱の群衆が雪崩れ込んでくる。

「ヌシらの恨みは儂じゃろう、老いたこの身なれど、とくと引き受けようではないか!」

 シルベウスの体から赤黒い光が爆発した。

 目撃した者は、後に語った。
 どれだけ切り付けられ、血を吐こうとも、己が血さえ身に纏い、暗黒の闘気を揺らめかせて戦い続ける姿は、まさに”生きる屍”であったと。





  ーレオニア王国記 第二期 十七話につづくー  




(20240618初掲)


                    

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■レオニア王国記本編 第一期もくじ■
ここから全てが始まった。Bramaleさん作の本編を軸に広がる、レオニア国をめぐる群像劇!



完結済みのレオニダス著 レオニアサイドストーリー:
■レオニア王国記 前日譚■
タイガルドから、元敵国へ輿入れとなったローザ姫に付き従う、宰相の若き日──ルイスの物語。

■レオニア王国記 よみびとしらず■
本編より遡ること20年前。レオニアは未だ戦争の渦中にあった。王子であったレオニダスの
ある出会いの話。


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