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【架空サブクエ】聖竜のお気に入り 第3話(終)

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※架空のサブクエスト・エピソード妄想。二次創作小説です。
※紅蓮のリベレーター(パッチ4.0)終了後の時点の話ですが、内容は蒼天の後日談となります。


第1話
第2話
第3話(終)

   ◇

テイルフェザー近くの、開けた高台の上で、ヴィゾーヴニルは待っていた。
ルーパルやマルスシャンは、これからチョコボの世話の仕事があると言うので、「よろしく言っといてくれ」との言伝を預かって別れた。
調教途中のチョコボは、まだ警戒心が強い。ドラゴンの臭いのついた状態で近づくと、下手をすれば蹴飛ばされるのだという。彼らの仕事も、過酷なものだ。

ボウル一杯のトライフルを食べきり、そのまま押し黙ってしまったヴィゾーヴニルの横で、カミルと俺と、ついでにミドガルズオルムは(何故彼までいちいちおこぼれに与っているのか、全く分からない)、フルーツとカスタードクリームの味わいを、ゆっくりと堪能した。

「どうだい、やっぱ違うか?」
匙に掬ったベリーを口に放り込みながら、俺はヴィゾーヴニルに水を向ける。
「うむ……これでもないようだ。足労をかけてすまない」
ヴィゾーヴニルは首を振って、難しい顔でこちらを見下ろした。
「吾輩は不思議でならないのだが。何故、ヒトは複数の食物を混ぜ合わせたり、重ねたりするのだろうな……」
はあ、と俺は間の抜けた相槌を打つ。
「哲学的な質問だな」
「そ、そうか?」
空になった器を置いて、カミルが首を傾げた。

「マフィンにチーズと卵を乗せると何故美味いかなんて、考えた事なかったぞ。生クリームの上にフルーツを乗せたがる理由も」
「そらまあ、おれもねえけど……」
「ってことはヴィゾーヴニル、聖竜のお気に入りは」
と、俺は匙をひとつ振ってみせる。
「もう少しシンプルな食べ物だったんじゃないか?」

「そのように思う。果実と、水牛の乳を同時に味わわせるような……そうした複雑怪奇な構造ではなかったはずだ」
全世界の菓子職人が立腹しかねない言い草だが、お陰で、探し物の候補はいくらか絞り込めた。

「成程……よしカミル、ちょっくらヴァスの塚に行ってみよう」
「えっ?」
カミルがきょとんと目を瞬かせる。
「グナース族も茶菓子を用意したって、マルスシャンが言ってただろ」
「ああ、跳ねる石鹸がどうとか」
「それだよ。何だか気になるんだよな……というより、嫌な予感がする」
「オッサンって、嫌な予感ばっか当てるよな。くじ運とかはさっぱりな癖に」
余計な事を言うカミルから、空の器を取り上げて、俺は早速、出立の準備に取りかかった。

   ◇

“分かたれし者たち”が隠れ棲む集落は、ドラヴァニアの峻厳な渓谷の合間に、ひっそりと佇んでいる。ドラゴンや、“繋がれし者たち”の眼を逃れるための立地である。

しかし――それにしても、今日はひっそりし過ぎていた。
ウデキキが仕切っている市場に行っても、人っ子一人おらず、コンガマトーの飼育場も空っぽだ。路傍には、積み降ろしの途中といった様子の荷車が放り出されていた。

「何だ、どうしたんだ?」
カミルがきょろきょろと周囲を見渡す。
「おーい、ウマソウ」
俺も片手をメガホン代わりにして、無人の集落に呼びかけてみた。

すると、建材らしい藁山の奥から、応じる声がある。
「シシシシシ……気前の良いヒト、貴方なの?」
「お、ウマソウ――か?」
グナース族の個人を識別するのは難しいが、彼女は声色に特徴があるので、何となく分かる。
俺が藁山の前で身を屈めると、ややあって、笠を被ったような扁平な頭部が、のっそりと現れた。

「驚いたわ、シシシシシ……ドラゴンが集落のすぐ傍に飛来したものだから。皆、避難用の塚だとか、穴蔵に潜ってしまったのよ」
「なんだ、そういう事か。あれはヴィゾーヴニルだよ、知ってるだろ」
カミルが肩越しに、ヴィゾーヴニルの降り立った方角を親指で示す。

ドラゴン二名には、グナース族を刺激しないよう、少し離れた場所で待機して貰っているのだが、それでも、邪竜の眷属に脅かされてきたドラヴァニアの少数民族には、過分な刺激になってしまったようだ。

「知ってはいる……知ってはいても、大きな翼の影を見た途端に隠れ潜みたくなる衝動は、抑え難いものなのよ……他種族との交易によって生き延びる道を選んだなら、いずれ克服しなくてはならない本能だけどね」
ウマソウが自省を込めて語る間にも、一体どこに隠れていたのか、そこかしこから硬質な足音と共に、分かたれし者たちが姿を見せ、這い寄って来た。

「シシシシシ……気前の良いヒトだ」
「ウデキキの師匠の冒険者だ……」
「何か持ってきてくれたのかな?」
周りに集まってざわつくグナース族達に向け、俺は両手を振ってみせた。

「悪い悪い、驚かせちまって。えーと、今日は取引じゃなく、頼みがあって来たんだ」
「シシシ……頼み?」
ウマソウが訝しむように、顎をカタカタと鳴らす。
「そう。実は、この前の会合の時にだな……」

   ◇

ここまでの経緯を一通り説明し終えたところで、じっと耳を傾けていたウマソウが、下顎の隙間から、あの笑い声とも何とも呼び難い音を、大きく発した。
「シシシシシ……!ドラゴン族と茶菓子の好みが一致したかも、ですって?何てこと」
「そんじゃ、君らも茶会に菓子を持ち寄ったってのは、本当なのかい」
「そうよ。でも持って行ったのは、きちんとヒトとの取引で手に入れた、ヒトの食べ物だったはずなのに。シシシシシ……ヒトの代表からは、評判が良くなかったようね」

「ヒトの食べ物?」
カミルが眉間に皺を寄せる。
「『跳ね回る石鹸』が?」
「ええ。正確には、取引というより……」
「土産、じゃないか?キ・ヤンターからの」
俺は口を挟んだ。
テイルフェザーを発つ時から抱いていた嫌な予感が、残念ながら的中したかもしれない。

ウマソウは、驚いた風に両の前脚を広げた。
「まるで“繋がれし者”ね。何故分かったの?シシシシシ……まあいいわ。こっちに、その茶菓子を飼ってる牧場があるの。見てみる?」

「茶菓子を――飼ってる?乳製品か?蜜蜂?」
いよいよ混乱した表情のカミルが、お手上げといった様相で両手を振る。
「オッサンも、何で知ってたんだよ!いつの間に?」
「知ってた訳じゃない、半分勘だよ。嫌な予感が当たっただけだ」
何故そんな予感を抱くに至ったかというと、今想像している食品――『跳ね回る石鹸』に対して、俺は多少の思い入れと、馴染みがあるからだった。

「シシシシシ……ほら、あれよ。ヴァスの塚で初めての、食用牧場ね」
ウマソウに連れられて集落の奥へと歩みを進めた俺達は、彼女の指し示した方角へと、首を巡らせる。
コンガマトーの運動場の隣、木柵で囲まれた小さな野原に、蠢くものがあった。

「あれって――ええと――餅!?」
カミルが叫んで、目を瞠る。
その眼前では、ヒューランの身の丈程もある巨大な白い塊が複数、モンスターで言うところのプリンやムースを思わせる粘着質な挙動で、のろのろと這い回っていた。

「予感的中かあ……」
あれを『餅』と呼ぶのは非常に躊躇われるが、一応はその通りだ。
故郷、ひんがしの国の名物の一つとも言える、祝い事のためのめでたい食品の、目も当てられない有り様に、俺は天を仰いだ。

   ◇

数ヶ月前。年明けから間もない頃、俺達はリムサ・ロミンサに帰還した。

クガネ発、エオルゼア行きの商船には、文化交流のためにひんがしの国から西洋へと旅立ったという、餅代官なる男が同乗していた。
同郷のよしみで多少親しくなり、彼の餅つきと餅まきを手伝う事になったのだが、どういう訳か、リムサ・ロミンサの街外れで餅つきを始めた途端、餅が暴れ出したのである。

原因はよく分からないが、エオルゼアと東洋地域では、エーテルの質も巡り方も、魔力の在りようも、信仰も異なる。
餅つきというのは、ひんがしの国では新年の祝祭などに伴って行われる儀式、広い意味での呪術と呼べるので、性質の異なるエオルゼアのエーテルに触れる事で、何か異常な作用を引き起こしたのかもしれない――と、これは俺の適当な推論である。

とにかく俺達は、暴れる餅を取り押さえ、どうにか普通の蒸し米の塊に戻した。その後、多少心が痛んだが、鎮まった餅を一口サイズに切り分け、通りすがりの人々に配り歩き、概ねの好評を得て、東洋式の降神祭は終了した。

恐らく、その時の餅が回りまわって、キ・ヤンターの手に渡ったのだろう。
事情を知らないキ・ヤンターは、リムサ・ロミンサ土産の珍しい食品として、それを更にグナース族にお裾分けした。
ところが、ここで事件が起きる。

「シシシシシ……キ・ヤンターが帰った後で、箱の中の切り分けられていた餅が、急に暴れ始めたのよ。どうも箱の中でくっつき合ったみたいで、ご覧のとおり巨大化してしまってね。箱の蓋はすぐに壊れて、餅が集落中を跳ね回ったわ」
霊峰が近く、エーテルの乱れやすい土地柄のためか、最近この近くで蛮神が召喚されたためか。原因は不明だが、とにかく大騒ぎになった。
「でもどうにか取り押さえて、静かになったのを食べてみたら……シシシシシ!美味しいのよこれが」

ウマソウによれば、キ・ヤンターからは本来の餅の食べ方を説明されていたのだが、その通りに焼いたり煮たりするよりも、巨大化して暴れた後の餅をそのまま食べる方が「美味かった」との事だ。
「“繋がれし者”だった頃から、私達は菌類の栽培や、コンガマトーの飼育をしていたけれど……牧畜の経験はほとんどないの。シシシシシ……でも、知ってのとおり、ヴァスの塚は万年食糧難。この機会に挑戦してみようって皆で決めて、残った暴れ餅を、飼育して繁殖させる事にしたのよ」
「餅を……繁殖」
俺は感想に困り、ただおうむ返しに唸った。

ストーリーテラーやウデキキの指示のもと、分かたれし者たちは暴れ餅の繁殖実験に奔走した。
ソーサラーの才能を持つ者が魔力を注入してみたり、繋がれし者たちが蛮神召喚のために貯め込んでいたクリスタルを盗み出して与えたり、色々と試みたものの、未だ成功には到っていないそうだ。

「シシシシシ……そんな折に、ヒトとドラゴンとの会合が開かれ、私達も招待される事になった。良い機会だから、この美味しい暴れ餅をヒトにも食べて貰って、繁殖方法について知恵を借りようと考えたってわけ……」

ただし、この作戦もあまり上手くは行かなかった。
茶会の席で、一旦鎮めたはずの餅がまた暴れ出したものだから、人間の出席者は軒並み、この謎めいた茶菓子を敬遠したのである。誰もそれを、リムサ・ロミンサで餅代官が振る舞っていた、米から作られた東洋の食品だとは認識しなかった。というか、食べ物だとも思わなかっただろう。

「暴れた餅は、結局ドラゴンが一呑みにしてくれて、大ごとにはならなかったのだけど。私もヒストリアンも、ドラゴンを前にすると身が竦んでしまうから……ろくに会話も出来なかったし、勿論食べた感想なんて聞けなかったわ。シシシシシ……これは反省するべきね……」

「はあー……そんな事が」
カミルは、柵の中の巨大な餅とウマソウを見比べつつ、困惑しきった表情を浮かべている。
俺は腕を組んでしばし黙考したのち、一言述べた。
「……餅を茶菓子と呼ぶ事に違和感がある」

「そこかよ!」
すかさずカミルが突っ込む。
「そもそも餅ってのは、暴れ回るもんじゃないんだろ!?」
「そりゃそうだ。そいつは大前提としてだな。確かにおやつになるような餅菓子もあるんだが、新年に食う餅ってのは、もうちょっとこう、お膳の主役も張れるような、めでたい食べ物で……」

「わーったよ。オッサンの郷土愛はよく分かった。餅は美味くてめでたくて、モンスターみたいな危ない食い物じゃねえんだな?」
「いや、危ないことは危ない。子供の頃、隣の家の爺さんが食って死にかけたのを見た」
「なんだそりゃ!危ねえんじゃねえか!!」
勿論、暴れる餅に襲われた訳ではない。単に喉に詰まらせたのである。

「シシシシシ……」
俺達の遣り取りを見て、ウマソウはおかしそうに顎を震動させた。
「とにかく……ドラゴン族が餅を食べたいというのなら、友好のために喜んで振る舞うわ。タイミングも良かった。丁度、活きの良いのをひとつ、捌いたところなの……」
「なんか言い方がグロい」
顔をしかめるカミルである。
彼も俺も、旅の中で、獣や魚を狩って捌く機会は多いのだが。

ともあれ、ウマソウが牧場の担当にかけ合い、一口大に切り分けられた餅を、たっぷり1ダースばかり譲って貰える事が決まった。

集落の出口には、ウマソウに加えて、塚の長老とも呼ぶべきストーリーテラーが見送りに立った。
「聖竜と眷属達によろしくね、気前の良いヒト。シシシシシ……」
「遠からず、茶会での非礼を詫びに行くとも伝えておくれ。シシシシシ……我らもまた、歩み寄るために踏み出さねばなるまいな。ヒトの冒険者のように、気前良く……」
暴れ餅に対しては複雑な心境だったが、物資不足と食糧難に困っていた彼らが、前向きにやっているのを見られたのは何よりだ。
こうして俺達は、成果物を抱えてヴァスの塚を後にした。

   ◇

「――てな訳で、これがグナース族の提供した茶菓子だ。正確に言うと、ひんがしの国の食品がうっかり、グナース向けにアレンジされたもの、って事になるが」
俺の話を聞いたヴィゾーヴニルとミドガルズオルムは、木箱に詰められた柔らかい切り餅を、興味深そうに覗き込んだ。

「ふうむ。先刻までとうって変わって、構造の単純な食物と見える」
「そらもう。米しか使ってないし」
ミドガルズオルムの感想に、俺は肩を竦めた。
個人的な好みとしては、澄まし汁の具にした物、つまり雑煮を薦めたいのだが、今は材料がない。ドラゴンの食の好みは、どうやら全般にシンプルらしいし、とりあえずこのまま味見して貰うとしよう。

「どれ……」
ヴィゾーヴニルが、くちばしの先で餅を摘まみ上げ、ぱくりと口に放り込んだ。
途端、赤味を帯びた両眼が、大きく開かれる。
「おお……これぞまさしく。間違いない、探し求めていた逸品……!」
「おっ、ビンゴか!」
カミルが指をぱちりと打ち鳴らした。

「その通りだ。感謝するぞ、小さき者……!我が父祖もまた、この味わいに感銘を受けていたはず。そして、今一度口にする事を、密やかに願っておられる。そうか、そなたらはこれを、モチ、と呼ぶのだな」
「エオルゼアの言葉じゃないがね。この辺りじゃ入手も困難なんだ。分かたれし者達が『繁殖』させようとしてるが、上手く行くのかどうかは分からん。というか、そもそも生き物じゃないんだし、多分上手く行かないだろう」

「それは、致し方なきこと」
ヴィゾーヴニルは諦め良く頷いた。
「だが……グナース族がかような形で日々勤しんでいたとは。分かたれし者達か……我ら聖竜の眷属も、彼らに歩み寄るべき時であるやもしれぬ。同じ食物を美味として味わえるのだ。解り合える事柄は、他にもあろう」

「うーん、餅が二種族の架け橋に。これくっつきやすいもんな」
上手い事を言ってやった、と言わんばかりに木箱を掲げるカミルを、俺は多少冷ややかに促した。
「何を言ってんだいお前さんは。さて、早速フレースヴェルグの所に持ってくぞ」

   ◇

ドラヴァニア雲海――
ドラゴン族の拠点であり、壮麗な巨大建築の痕跡がそこかしこに残る高原。
中でも白亜の宮殿の雄大さは、一見の価値ありと言える。そこに行き着くまでの登山は危険極まりないが、今回はドラゴンの送迎つきだ。

ヴィゾーヴニルかミドガルズオルムが、人間には聞き取れないメッセージでも発していたのか、モーグリに貰ったラッパを吹くまでもなく、宮殿には主の訪れの先触れである、局地的な嵐が巻き起こっていた。
間もなく、雲とも霧ともつかない、微小な氷粒の狭間から、ヴィゾーヴニルを凌ぐ巨大なドラゴンが姿を現す。
鳥類の羽毛にも見えれば、鱗に覆われているようにも見える不可思議な白い翼を、厳かな仕草で畳んでみせた聖竜・フレースフェルグは、ドラゴン二名に人間二名という珍奇な一行の来訪に、最近ようやく元通りに揃った双眸を眇めてみせた。

「我が父よ。これは如何なる事態であろうか」
と、彼はまずミドガルズオルムに問いかける。
「此度は、そう構える必要もないのだぞ、我が子よ」
騎乗出来るサイズに変幻したまま、ミドガルズオルムはどこか愉快そうに応じた。

「そうだな。ミドガルズオルムは、ほんと付いてきて飯食ってただけだから」
ぽろりと余計な注釈を入れると、またも、剣呑な眼差しを向けられる。
……省みるに、どうも俺は幻龍に対する失言が多いような気がする。ミドガルズオルムがカミルに取り憑いていた間は、彼とイシュガルドの命運が人質のような状態だったから、言いたい事もぽんぽんとは言えず、色々溜まっていたのかもしれない。

「聖竜、我らが父祖。貴方の苦悩を承知で申し上げる。我々は……」
口を切ったヴィゾーヴニルが、説明の途中で、言葉を探るように長い首を捻る。その視線がカミルとかち合い、彼はちょっと照れ臭げに首を竦めてから、一歩前に進み出た。
「そのー、ヴィゾーヴニルが、お茶でもしないかって。あんたの好物も持ってきたから」
掲げた木箱には、切り餅が鎮座している。――多分もう暴れない奴だ。

「これは……」
木箱の中を覗き込んだフレースヴェルグが、驚きの声を上げた。
「グナース族からの進呈」苦笑い混じりに、俺は言う。「元を正すと……ま、テイルフェザーの人間と、分かたれし者たちの友好の賜物ってところだな」

俺達に説明を委ねたヴィゾーヴニルが、そろりと再び口を開く。
「差し出がましい真似であったろうか?」
「いや、そうは言わぬ……」
娘とも呼ぶべき眷属に向けて、フレースヴェルグは存外、優しい声を掛けた。
「情けなき事、と思うたのだ。静かに朽ちるのを待つ身でありながら……そう告げておきながら……かように、我が子らや人間にまで気遣わせようとは」

聖竜が、ひょいと俺を見下ろす。
「お主、身体はもう良いのか」
「ん?ああ。お陰さんで」
と、俺は笑った。

皇都イシュガルドを襲った邪竜の影との決戦において、俺はフレースヴェルグの『竜の眼』を借り受けて戦ったのだが、これがなかなか、楽なものではなかった。
肉体的にも魔力の上でも、本来人間が振るうはずのない力を行使し続けたせいで、その後三日ばかりは、寝返りも打てない程に身体が痛み、祝賀の席も何もかもすっぽかして、ベッドに転がっている羽目になったのである。
だから、フレースヴェルグにもきちんと別れの挨拶が出来ないままだった。

「俺より危なかったエスティニアンも、元気にやってるはずだよ。どこでどうしてるのかは知らんがね」
「あの竜騎士か。あれならば……」
「ん?」
「……いや」
何故だかフレースヴェルグは、途中で口を噤んだ。あの戦いの後、エスティニアンにどこかで会ったのだろうか?

「そうそう。みんなそれなりに元気だよ。特にこのオッサンは、殺しても死なない奴だし」
「おい」
軽口を叩くカミルを睨んでから、俺は再び、フレースヴェルグを見上げる。
「静かに朽ちるのを待つってんなら、別に邪魔する気はないんだがな。あんたまだまだ、この先も長生きするんだろ?ほんの一瞬、楽しみを味わったって、余生の総時間で平均すれば大体静かだ」

「無茶な論理を立てるものだ」
呆れたように呟いたものの、フレースヴェルグは磨かれた石造りの床へと腰を落ち着け、相対する珍客へと、順々に首を巡らせた。
「だが……良いだろう。我が子とお主らの気遣いとあれば、無下にはせぬ。幻体で行楽にまで出る父祖を見習うのも、偶には良い」
「汝までもが、何を言う」
ミドガルズオルムは、不機嫌に尻尾を揺さぶる。

一方、カミルは嬉々として、抱えていた木箱をその場に下ろした。
「よーし!じゃ、おれらも焚火でも熾して、休憩しようぜ!何だかんだで疲れちまった」
「茶も沸かしたいしな。ドラゴンが飲める量は無理だが」
俺が一息ついてヴィゾーヴニルを見遣ると、彼女もまた、笑いの混ざったような吐息を漏らした。

「なれば、吾輩も水汲みに参加するとしよう」
「薪もいる」
「アルフィノ連れてくりゃ良かったな」
近場の池に向けて歩き出すカミルに、俺は眉をひそめてみせる。
「『薪』でいちいち、あいつを連想してやるなよ……別に薪拾い屋じゃないし」
「ちげーよ!ここでキャンプするって言ったら、懐かしむだろうなって思っただけだよ!」

言われてみれば、以前にもここの近くでキャンプを張った事がある。
あの時はアルフィノがいて、イゼルとエスティニアンもいた。喧嘩は多いわ、アルフィノとカミルはまだ落ち込みがちだわで、正直苦労の多いパーティーだったが、振り返れば懐かしいものだ。

「薪拾い屋?一体何の事だ」
ヴィゾーヴニルが首を傾げるので、俺は彼女の前脚を、軽快に叩いた。
「さあて。その辺も含めて、ゆっくり聖竜との茶飲み話と行こうか」

 〈了〉
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