You must be logged in to post comments.
Log In
Filter which items are to be displayed below.
* Notifications for standings updates are shared across all Worlds.
* Notifications for PvP team formations are shared for all languages.
* Notifications for free company formations are shared for all languages.
一年の計は元旦にあり。
「貴方、この言葉の意味を知っていらして?」
小さな羽箒で窓枠の埃を払っていたエレゼンの女性が、眼鏡を朝日にきらめかせながら振り返った。
いつもの麗しい装飾のドレスに、可愛らしいが悪趣味ではない小柄な花柄のエプロンを身に纏っている。妙齢だが、すらりとした長身と洗練された優雅な仕草が、いかにも貴族らしい彼女の美しさを際立たせていた。
彼女の一族は皆双蛇党の軍人であり、グリダニアでも有数の名誉ある家柄である。彼女自身も元軍人ではあるものの、退役した今では令嬢の1人。普段であれば掃除は館のメイドや使用人に任せるべき仕事である。
だが、彼女はそれを良しとしない。部下に的確に指示を与えるだけでなく、自ら率先して箒を、雑巾を手に、ぱきぱきと片付け清めていく。
彼女はこの店のオーナーであり、ここは彼女の愛する家のひとつであるからだ。
骨董品店とは多種多様な品で雑然としているのが普通であるが、それが汚ならしいものであったり見苦しいものであってはならない。
オーナーとスタッフの手によって、どの品々も磨かんばかり…とは言わないが美しく、規則正しく、整然と並べられていた。
一階の骨董品店と地下の冒険者酒場店内、そして二階のスタッフルームの掃除も終わったばかり。部下達もほっと一息ついて、オーナー自らが用意したお茶とケーキを地下で堪能しているところだ。ただ一人を除いて。
そう、自他共に厳しい彼女でも、思うように美しく磨けないものもあった。
「知らねぇよぉ…なんだ、そりゃ。ひんがしの言葉かね。」
その筆頭である、彼女の持ち物…もとい、雇いの部下である寝巻き姿のミコッテは、清潔ではない頭と鉛色の腹をガリガリ掻きむしりながらめんどくさそうに尋ねた。
スタッフの中で唯一冒険者であるこのミコッテは、昼夜関係なく外に出向き、冒険者稼業を営んでいる身だ。だからこそ、今日の店内の大掃除も免除されていたのだが…。
「降神祭ももう終わり。そろそろお祭り気分を抜かないといけないのではなくて?」
「だからどういう…ぶへっ!」
言葉を遮るように、ミコッテの顔に何かタオルのような、柔らかいものが叩きつけられる。広げてみると、それはいつも彼が酒場を営む時に着ているシャツとズボン…謂わば営業服だった。
腰に手を当てた令嬢は、ベッドの上でだらしなく座るミコッテの前に立った。憮然とした様子のミコッテを見下ろす姿は、まるでできの悪い幼子を叱るようであった。
「先程の言葉の意味をお教えしましょう。一年の計画は元旦…つまり年の初めに立てるべきと言うことですわ。元旦はもう過ぎてしまいましたけれどまだ一週間ですもの、間に合います。今こそ、気持ちを切り替えて積極的に動くべきなのですわ。」
「それがどうかしたのかよぉ…んだよ、また店とかやべぇブツの押し付け会やれってか?ん?」
ずん!と鈍い音を立てて、令嬢はベッドの縁に片足をかけた。細く均整のとれた足であるが、その脚力と勢いにベットが傾き、座っていたミコッテも思わずひっくり返りそうになった。
「貴方もこの店の主。今年も勿論、冒険者の交流酒場を開いて欲しいのですが…何よりも、まず掴むべきは情報ですわ!」
令嬢はミコッテの寝間着をむんずと掴み、口付けしそうな程顔を寄せた。日々魔物や荒くれ共との戦いに明け暮れるミコッテだが、かつて双蛇党で『獅子拳』と呼ばれた彼女の剛力を振りほどける筈もない。眼鏡越しの鋭い眼光に何も言えず、気迫に押されたままだ。
彼女の目は野望に燃えていた。
焔神イフリートもかくや、という程に。
「ああ、この女…俺以上に金の亡者だったわ。」とミコッテは今更思い出した。
「貴方に命じます。冒険者を招きなさい。そして聞くのです!冒険者達がこれまでどのような依頼を受けてきたのか…どのような出来事を体験したのか。そして、どのような戦いを生き抜いてきたのか!冒険者達の生の声、そこに商機あり!冒険者のニーズを掴むこと!それこそ、私達商人がいち早く得るべき情報ですわ!!」