兎が虎に勝てないように。
虎が竜に勝てないように。
この世には常として、狩るモノと狩られるモノ……絶対的な強者と弱者の関係が存在する。
人はそれを自然の摂理と呼ぶが、事ここに至ってKazukiは気付く。摂理だの必然だのといった御託は、その身を自分の血で濡らした事の無いシヴィリアンの私見に過ぎないのだと言うことを。
――思えば彼も、狩りという言葉を好んで使っていたか。蒼穹に浮かぶ決戦場にて。
苛烈な攻撃を前に意識を飛ばしていたKazukiは、再びその圧倒的な存在を翠色の瞳に収めた。
威風堂々という言葉がこれ程似合う存在もいまい。
妄執が生み出した最凶の蛮神――神竜は、依然として無傷のままKazuki達の前に君臨し続けている。
雲を巻く程の巨体は竜の神を名乗るに相応しい覇気を宿しており、黄金の鱗に反射するKazukiの姿は、いつも以上に小さく見えた。
それがララフェルという種族由来の物ではなく絶望的な力量差から来る錯覚だと悟った次の瞬間、
神竜が咆哮した。
先陣を切る戦士の激が飛ぶ。
数秒遅れて決戦場の中心に神竜の尾が激突――周囲にいた光の戦士達を物言わぬ肉塊へと変えた。
既のところで躱したKazukiだが、息つく間も無く神竜の猛攻――否、災厄は続く。
一度吠えれば
炎が踊り、
二度吠えれば
天が鳴き、
三度吠えれば凍てつく
氷が全てを貫く。
神竜は一歩たりとも動いていない。
Kazuki達が死に物狂いで災厄に抗う様を、悦に浸りながら眺めているだけだ。
最早、戦いの様相ではない。
それは神竜による一方的な「狩り」だった。
「
―――っ」
ふと、轟音と共に無数の光が降り注いだ。
高熱を帯びた光の束は戦士達の肉体を容赦なく抉り抜き、その身体を地に縫い付ける。
安全な場所など存在しない。
騎士が。侍が。占星術師が。
等しく哀れな標本へと姿を変える。
その光景を見て、Kazukiは完全に戦意を喪失した。
マバリア……一回限りの防御魔法で自分だけは致命の一撃を防げたものの、次は無い。
手元の両手杖が滑り落ちる。
シャントット・スタッフ……Kazukiの冒険を今日まで支え続けてきた、相棒とも呼ぶべき両手杖だ。
煤だらけになったそれを見て、Kazukiは自嘲気味に笑う。
エオルゼア最強の黒魔道士。
かつて描いた無謀な夢は、どうやら夢のままで終わるらしい。
焼死か。感電死か。冷凍死か。
いずれにせよ、井の中の蛙にはお似合いの末路と言えるだろう。
数秒後に訪れる死を受け入れるように、Kazukiは静かに目を閉じ――、
その時だった。
「
――――や」
Kazukiの意識に直接、声が流れ込んできた。
幻聴ではない。これは、危機に瀕した光の戦士が無意識下で発動させる特殊能力――「超える力」による仲間達の声だ。
「
――から、――や」
「
――と、――ろ」
「
――な。――れ」
身体がボロボロだからだろうか。
内容を正確に聴き取る事は叶わないが、長い付き合いの間柄だ。それがKazukiへの激励だというのは、容易に想像がついた。
「はは、厳しい事を言うなぁ……」
そうだ。
まだ、何も終わっていない。
癒し手がいないから何だ。
守り手がいないから何だ。
まだだ。
まだ終わっていない。
まだ、俺が残っている――!
「だから――!」
仲間の声に背中を押され、Kazukiは立つ。
依然として神竜は無傷、状況は何も好転していない。だが、Kazukiはもう怯まない。怯えない。挫けない。
仲間達が、後ろで見守ってくれている。
それだけで、Kazukiの体には無限の勇気が宿った気がした。
炎が踊る?
天が鳴く?
凍てつく氷?
生憎と、それは黒魔道士の得意分野だ。
「
――うおおおおおおおっ!」
咆哮するKazukiの身体から眩い光が迸る。
その姿はまさに、古き伝承に伝わる光の戦士。
最強の英雄として完全なる覚醒を果たした今なら、朧気だった仲間達の声もハッキリと聞き取れるだろう。
だから、今一度問う。
「
みんな……俺に、俺に力を貸してくれ!」
Kazukiの想いに、死者が答える。
「
うるせぇ! 負け確なんだからさっさとワイプしろや!」
次の瞬間、神竜の尾がKazukiの身体を粉砕した。
跡形も無く粉砕されたKazukiの肉体。
それを神竜はボウルで鮮やかにキャッチ。続けて白玉粉と水を混ぜたものをボウルに投入し、一心不乱に掻き混ぜる。
混ぜる手は止めずに米粉を加え、さらに砂糖を投入すれば、硬い生地は神竜の狙い通り……少しずつトロみを帯びていく。
神竜の猛攻は止まらない。
彼はトロトロになった生地にラップをかけて、600wのレンジで二分加熱した。時間が経てば一度取り出し、今度は濡らしたスプーンで再度掻き混ぜる。
それが終われば、更にレンジで一分加熱――。
一分後。
そこには、餅のように粘りを帯びた生地があった。
神竜は予め準備していたシナモンときな粉を混ぜ合わせたものにその生地を乗せ、綿棒で薄く丁寧に伸ばしていく。
薄く伸ばした生地に包丁を入れて、画竜点睛――餡子を包むように三角に折れば、
クガネ名物、生八つ橋の完成だ。
甘くとろける生地に包まれながら、Kazukiは思った。
極神竜は――しばらくいいかな。
トレジャーハントに行こう。そう告げたのは、FCマスターのyoungstarだ。
時間は日曜の深夜1時。良い子と社会人はとうに寝る時間だが、極神竜に手も足も出なかったFCメンバーは「このままでは寝られない」とこれに同調。
メンバーであるoyatsuhunterの愛車(※税込3927円)に飛び乗り、一行は一攫千金を求めて空を駆ける。
トレジャーハントというのは、宝の地図に記載された座標に眠るダンジョンを攻略し、結果次第でエモートや素材等のアイテムを入手できる多人数向けコンテンツである。
他のコンテンツに比べてランダムな要素が多いのが特徴で、運に恵まれなければ報酬の善し悪しどころか、ダンジョンに入る事さえ許されないFF14随一のダークサイドコンテンツだ。
故にKazukiは不安だった。
なんせ我がFC「Whoopi goldberg」の今日の運勢は最悪(※運が向くまで勝負し続けるスタイルのFCなので神竜に勝てなかった地点でバッドラック)と来ている。その上、最近入団した新興宗教、
Gaia Lalafell Kyodanの大司教である鴨様愛用のカウルがチンピラとの激戦の末ほつれたという報告もあった←ヒゲキ
そんな中で行われる宝探し。
せめて、この瞬間までの不幸が厄落としになっていればという祈りも虚しく、ディグは不発を重ねる。
出ない出ない出ない出ない。ダンジョンが出ない。
時間も相まってみるみる機嫌の悪くなっていくメンバー達。彼らの貧乏揺すりで背中を解されるルナホエールが気持ちよさそうに吠える(
※ホエールだけに)。
そうして気づけば深夜の2時半。
ダンジョン自体は何度か出現したものの、特に大きな成果もなくアトモス(※カスの類義語)に追い出されるという結果が続き、メンバーは憔悴。
暗黒騎士(Lv34)でその辺のモンスター(Lv76)に喧嘩を売る奴、それにシャークをつける奴、ところ構わず踊り続ける奴……止まらない狂乱。響き渡る嗚咽。地を震わす絶叫。第一世界はプライド無き外来種共の手によって地獄の様相を呈していた。
こんな
キチガイ共と一緒にされては敵わないと、Kazukiはこっそりテレポでクガネの実家に逃亡し、マーケットボードから目をつけていた商品を取り寄せる。
ドーンブレイド。入手困難を極める、高単価髪型だ。
だが新パッチの影響でその価値は大暴落――およそ80万ギルと、Kazukiでも手の届く価格に落ち着いていた。
すぐさまKazukiは美容師を呼び出して髪型を変更――鏡に映る己の姿に小さく息を吐く。
なんと愛らしい事だろう。
この可愛さがあれば、怒りに身を焦がした仲間達を正気に戻す事ができるかもしれない。
すぐさまKazuki――否、
平和を愛する紅き妖精はテレポを唱え、大切な仲間たちの元へ向かう。
「
もういい……もう戦わなくていいんだ……!」
荒野に響き渡るスィートボイス。
皆の視線が集まったタイミングで、自分にできる渾身のエモートを挟む。
そして、その結果は――!
はい終わり。
エオルゼアは終わりです。