※小説です。
ザナラーンの貧民をお話にしてみました。
冒険者は登場しません。
約2500文字ほどの文章です。
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『実と棘』
舞い上がった砂埃がおさまると、そこにはサボテンの屍が広がっていた。
サボテン——ザナラーン地方に生息するカクターと呼ばれるサボテンのような魔物——の死骸は街道を塞ぐように散らばる。
伝説に謳われるような立派な武器を持った冒険者が現れたかと思うとカクターの群れを一掃していったのだ。
男は整地作業の手を止め、のろのろとサボテンの死骸の片付けに向かった。
***
太陽が地を焦がし焼かれた石は風が砂とする。
熱砂の地ザナラーンでは巨大な機械仕掛けの鉄槌が地響きとともに大地を締め固めていた。
王都ウルダハほど近い金槌大地では富裕層向けの高級住宅地の開発が行われている。
男はそこで整地作業に従事していた。
いや、従事なんて立派なものではない。その日暮らしの日雇い人足である。技術者たちや現場監督にでくの坊とどやされながら頭を下げ荷運びや雑務をおこなう。
それだけではない。
この干からびた土地にも何を糧に生きているのか魔物が徘徊する。
ときおり襲ってくる魔物の群れは冒険者が始末してくれるが、その後には、切り裂かれ焼かれ潰された魔物の死骸が山となり地を覆う。
その放置された魔物の死骸を片付けるのも男の役目であった。
うっちゃっておいてもいいものだが、虫も湧けば、水気を求めて他の魔物が死骸をあさりにも来る。なにより時折様子を見にくるお偉いさんを気にして現場監督の機嫌が悪くなる。
せめてやつらを一掃した冒険者たちがもっと場所を選んでくれればいいものだが、こちらの事情なぞ、おかまいなしであろう。彼らも次の仕事を求めて忙しそうに駆けずり回っているのだ。
この国では誰もが生きるための糧を得るのに忙しい。"余裕"なんてものがあるのは、この整地作業をしている住宅地に住むことになる一部の富裕層だけであろう。
それでも、彼ら冒険者のように未来を自身の手でつかみ取るような実感でもあれば、気の持ちようも違うのかもしれない。たとえその未来が酒がもたらす仮初めの高揚のようなものだとしてもだ。
男もそんな生き様に憧れがないわけではなかった。
だが、そんな連中と自分とは生まれも育ちも違うのだ。
貧民、それも都市にも住めず荒野にボロを張った谷間でサボテンの実で飢えをしのいで育った身である。
蛮族や獣人におびえながら、砂にまみれた手の届かぬ星とサボテンを眺めるしかない子供。
動けば腹が減るのだから、どうすれば飢えをしのげるか、それしか考えられない。
それが大人になったとして何が出来るのであろう。
何も持たない自分には憧れを抱くことですら困難であった。
明日のことですら考えるのは食べるものがあるかどうか。
その先のこと、先の先のことなぞ、砂山のように崩れ風に流れていく。
輝く太陽ですら砂塵に隠れ、砂は人をうつむかせる。
希望の光も、またたくまに砂にまみれ輝きを失う。
夢も希望も腹を満たさず、叶うことのないそれを抱き続けるのは重荷を背負い砂礫の荒野を歩くことと同じだ。
自分のような貧民にとって、生きることとは食べるものを求め荒野を彷徨い続けることなのだから。
そここに散らばるカクターも実の一つでもつけてみれば腹の足しにもなるのだが、このあたりをたむろする奴らは何ももたらさなかった。
外皮は硬く砂にまみれ、繊維は筋張っている。とても食べられたものではない。
なんの役にも立たず、邪魔となれば一掃される哀れな存在。
自分と何が違うのだろう。
自分もいずれあのカクターのように道に転がり、邪魔にされて片付けられるのであろう。
何も持たぬ自分には誰も価値を見出さないのだから。
***
男が片付けに向かうと、ひとり子供がカクターの死骸を漁っていた。
「おい!何をしている」
男が強い口調で怒鳴りつけても、子供は知らぬ顔でカクターをかけらを吟味している。
「どうせ捨てるんだろ?それにあんたのもんじゃないじゃないか」
子供は臆することなく生意気に口答えをした。
見ると、子供は服なのかも怪しいような襤褸をまとっている。
男と同じ貧民の子のようだった。
少し口調を緩め、「片すのを手伝え、片したそばから散らかれてはかなわん」そう言って、そこらで拾ってきた杖ほどの長さの枯れ枝を一本、子供へ手渡した。
男と子供は街道に散らばるカクターの死骸に枯れ枝を突き刺し、それを路肩へと放る作業を始めた。
子供は、そんな不毛な作業の中でも目当てのサボテンの破片を見つけては選り分けていた。
こんなもの何に使うのかと尋ねると、乾燥させた繊維をタワシにするのだという。
1ギル2ギルと、たいした値はつかないが、それでも金になるのだと
「王都の東のサボテンから採れる染料になるアカムシの方が金になるだけどな」
「ほんとは立派な棘が欲しいんだ、裁縫道具にもなるアレは金になるんだ」
そんなことも言っていた。
「針になるような棘をもつサボテンは危ないから近づくなよ」
「んなの、わかってるさ。でもいつか手に入れるんだ」
同じ、ではなかった。
男が食べられるかどうかでしか見ていなかった世界の先を見据えていた。
砂にまみれていたとしても、その目は道を示す光を捉えていた。
こんな子供が、同じ貧民である子供ですら、男が持ち得ぬものを持っていることに怒り似た感情がこみ上げてくる。
片付けは十分と判断したのか、子供は選り分けたサボテンのかけらを手際よく紐で結わえて枝にくくりつけると、男に一声かけるでもなく去って行った。
漫然とその様子を眺めていた男に現場から男を呼ぶ怒鳴り声が届く。
くそったれめ!
今日は酒を飲もう。肉も食おう。明日の食い扶持なんか知ったことか!
男は枯れ枝に突き刺したかつてカクターであったものを思いっきり遠くへと放った。
Fin