F14の自作小説です。
ゲームとは違う解釈、内容がでてきますので、そういったものが苦手であれば避けて下さい。
前話
8話 歪な男「フィジク・バレット」
床に胡坐をかいたままウォーロックは短く呪文を唱えると、右手に持つ"本付き銃"の銃口を自らのこめかみに向けて引き金をひく。
何かがスライドするような機械音が聞こえると同時に、緑色に光る親指大の光弾が銃口から射出された。
弾丸がウォーロックの頭に命中すると、まるでスライムが身体を包み込むかのように緑色の膜となって全身に広がっていく。
(ひとまずはこれでいい。ホーリーというのは回避しようがないのが厄介だ)
フィジク・バレットは、命中した対象の傷を癒す弾丸を発射する。切り傷や刺し傷といった物理的な損傷だけでなく、魔法によって体内エーテルがうけたダメージを癒すことができる。
人の身体は"肉体"と"エーテル体"によって構成されており、魔法による攻撃は"肉体"を越えてエーテル体に直接作用する。
ホーリーの爆光は"エーテル体"と"肉体"との繋がりを一時的に阻害する事によって、麻痺に似た症状を引き起こさせると同時に"エーテル体"に対して打撲傷を与える。
ファイアであれば"エーテル体"は火傷を負い、ブリザドであれば凍傷を負う。こういった魔法によって"エーテル体"が傷を負った状態を魔力傷と言う。
魔力傷は肉体を直接損傷させないものの、"エーテル体"が受けたダメージは痣のようになって、身体の表面に現れる。
この痣の濃さで、"エーテル体"が受けたダメージ量を見て取れる。
ウォーロックが顔や胸元等、露出している箇所に受けたホーリーの魔力傷は、既にフィジク・バレットの効果で徐々に薄くなっているが完治にはまだ少しの時間が必要だろう。
(それにしてもあの男、何者だ。ホーリーは白魔法の中でも高位の呪文だったはず。それだけの技量を持ちながら、あの威力の蹴りを放つ体術も身に着けているとは・・・)
ウォーロックは蹴りを受けた左腕に視線を向け、手を開いたり閉じたりを繰り返す。
フィジク・バレット"の光に包まれているうちに、徐々に痺れと鈍い痛みが安らいでいく事が感じられた。"
(誰かが何かを仕組んでいる事は間違いがないだろう。単純に考えれば、俺やハートフルに害を与えたい者がいるという事だが・・・)
ウォーロックは左手を握り、胡坐をかいた足の上に下ろすと、眉間にしわを寄せて目をつぶると苦々しく鼻から息をはいた。
(その手の輩に事欠かない生き方をしているからな・・・)
テンパードを狩る仕事というのは、言い換えれば人を殺す仕事である。
実はテンパードハンター協会に持ち込まれる依頼のうち、半数以上はテンパードとしての処断を願うものではない。
テンパードにする為に誘拐された可能性があるから探索し、救出して欲しいという願いが多いのである。
(救出が間に合わなかった時にはその場で処理をするのが鉄則だ)
テンパード化してしまえば、誰であっても殺すというのがテンパードハンターの掟だ。
社会通念上も通じるものであり、決して責められるものではない。
だが実際に身内を殺された者達にとっては、ただ納得できるわけではないとようのも真実であり、それが元でテンパードハンターが恨みを買って復讐されるという事件も少なくはない。
(被害者からすれば、誰に向けていいかわからない憎しみの矛先向けやすい相手だからな)
ウォーロックは閉じていた瞼を開くと、"本付き銃"を床に置き、光沢のある黒いベストの内側から、鷹をモチーフとするデザイン画と8という数字の書かれた紙製の小さなケース、それよりも二回り程小さい金属製のオイルライターを取り出す。
紙製のケースを開けると、中には紙たばこが詰まっておりそれを器用に取り出すと口にくわえて金属製の物体を近づける。
近づける過程で、金属性の物体の上半分を押し上げるとカチンという音と共に内部機構が露出し、フリント(発火石)とフリントホイールが露出する。
フリントホイールを勢いよく回転させると、独特のオイル臭と共に火が立ち上った。
(だが"あの人"を探すためには、テンパードハンターという身分でいる方が都合がいい)
炎で紙たばこの先端を炙りながら、ウォーロックは深く息を吸い込む。
着火を確認してなら、オイルライターの蓋を閉じて火を消すと、溜息をつくように紫煙を吐き出した。
(あれ程の手練れを雇って、手の込んだ仕込みをできる人物というだけでも相手を絞れそうな気もするが、ここで憶測する事には意味はない)
ウォーロックの頭には撤退して体制を整え、誰のどんな思惑があるのかを探る選択肢は存在していなかった。
とある理由の為ににテンパードハンターをしているとは言え、本当に被害者がでている以上は行動する必要がある。
テンパードハンターとして活動する為の実績作りという側面もあるが、自分が動くことで救える人がいるのなら諦めたくないという思いがあった。
ましてや自分達をおびき寄せる為に巻き込まれただけかも知れない人達を見捨てる事は、絶対にできないと考えていた。
(何にせよ誘拐された黒渦団の小隊を助け出す必要があるのだから、火中だろうが何だろうが飛び込んでみるしかないだろう)
ウォーロックは紙たばこの灰を床に落としてまた咥える。
行儀の良い行いではないが、死体の散乱する小屋の中で常識を説いても今更というものだろう。
(もしかすると俺の性格をわかっている奴が仕組んでいるのかもしれないな)
何か天啓を得たかのように、銀縁の眼鏡の奥でウォーロックの目が光った。
紙たばこを咥えた口元がニヤリと歪む。
(さっきの男も俺達の事を"知っている"人間が用意したのだとすればかなり危険があるかもしれんが、ハートフルなら何とかするだろう)
床に手放したままの"本付き銃"を右手に持つと、今度は左手で紙たばこを掴む。
「"俺達"のお嬢さんは誰よりも強い」
誰に言うわけでもなくウォーロック低く言葉を放つ。
得意げな表情を浮かべるその顔からは、魔力傷の痣が消えていた。
「さて、6号棟に行くとしようか」
フィジク・バレットによって傷が癒えたのだろう、ウォーロックは身体の大きさを感じさえない速さでその場に立ち上がると、紙たばこを床に落として足で踏みつけた。