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ShortStory:『砂都のサボテンハンター』

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※小説です。

ウルダハでサボテンダー討伐を請け負う冒険者のお話をしたためてみました。
約5000文字ほどの文章です



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『砂都のサボテンハンター』


 男が振るう長剣が目の前のサボテン状の魔物の胴体を、その繊維にそって切り裂く。
 そして、倒れる魔物を前にすかさず半歩、身をずらすと、背後から矢ぶすまのごとくせまる無数の針を危なげなく躱す。
 男は怯む様子もなく、振り向きざま、今度は逆袈裟に剣を切り上げた。
 それは針を放ったサボテンの魔物の腕を切り上げて、そのまま頭頂の針を切り落とした。
 そして男は剣を振り下ろし、動きの鈍るサボテンの魔物の頭上から唐竹に割った。
 男は息を乱すこともなく剣を納めた。

 砂の荒野ザナラーン。赤く沈む夕陽が大王樹と、さきほどまで剣を振るっていた男の影を長く伸ばす。
 他に立つものはいない。
 男の足元には、無数のサボテンの魔物の屍がころがっていた。
 それらは冒険者ギルドが討伐を指示した魔物であった。
 男は冒険者である。サボテンダーと呼ばれるサボテン状の魔物の討伐を多く請け負うことから「サボテンハンター」などと揶揄するように呼ばれることもあった。

 ザナラーンのそこかしこに生息するカクターやサボテンダーと呼ばれる、サボテン状の魔物。
 ザナラーンの風土がよほど合うのか、狩っても狩っても、しばらくすると水の乏しい砂礫の地にも関わらず繁茂するかのように群れをなしている。
 積極的にヒトを襲う魔物ではないが、街道であろうとお構いなしに徘徊し、旅人や隊商を敵と捉えれば、その針を放ち襲ってくるそれは、たびたび冒険者ギルドへの討伐依頼がなされた。

 だが、サボテンである。
 肉もなく皮も取れない。鋭い針に使い道がないわけではないが、さほど需要があるものではない。
 さして高くもない討伐の依頼金のみで旨みがなく、鋭い針は無視できない脅威であるサボテンの討伐依頼は、冒険者たちにとって人気のない依頼であった。
 
 そんななか、さして腕に自信のあるわけでもない男が、糊口を凌ぐためにサボテンの討伐を請け負っていた。

 来る日も、来る日も、サボテンを狩る。

 それに不満を覚えたかと言えば、そうではなかった。
 貧民の出である男にとって、食い扶持さえ稼げれば仕事の中身なぞ、なんでもいいのだ。
 実入りが良いに越したことはないが、それで同業者と争うのなぞ御免こうむりたい。
 やたらめったらと飛び散らす鋭い針も、その動きをつぶさに観察すれば、そのタイミングを予測することもできる。
 硬い外皮も、繊維の筋を見極めれば、刃を通すことは容易い。

 日々サボテンを狩り、危険種として懸賞金を賭けられたサボテンダーすら一刀のもとに切り伏す男は、かくしてサボテンハンターと呼ばれることになった。
 サボテンを狩るしか能の無い男、と。
 実際、男が勇猛に剣を振るえるのはサボテンだけであったから、同業者からそう呼ばれることに不満はなかった。安い仕事かも知れぬが、名が知られたおかげで仕事に困ることはないのだから。
 多少の蓄えができれば、男の育った貧民窟の腹を空かせた子供たちに食べ物を持ち帰ることもできるのだ。


 だが、時に好事家がサボテンダーの頭上に咲く花を求めることがある。
 嘘か誠か、怪しげな薬の材料になるそうだ。
 サボテンにしてはめずらしく高額な依頼は、それは危地に咲く花のようであった。

 カルン埋没寺院——、砂に埋没する太古の寺院は、かつては太陽神を崇めるものたちに示していたであろう威容は見る影もなく、陽に焼け、風に朽ち、砂に帰りつつある。
 そんな古代遺跡に眠る宝物を狙い、多くの冒険者たちが——盗掘者避けに張り巡らされた罠が数多くあるにもかかわらず——遺跡の探索をおこなう。
 そんな探索者たちに、遺跡の中で女帝のように絢爛な花を咲かせるサボテンダーが目撃されていた。
 今回の依頼は、その女帝の花を持ち帰ることであった。

 遺跡の探索……、世間からは冒険者と呼ばれてはいるものの、サボテン狩りや街道の危険となる魔物の駆除を生業としている男にとっては、それは荷が重いものであった。慣れたサボテンであればこそ、懸賞首にも後れをとることはなかったが、遺跡ともなれば、そこに住み着く魔物だけでなく、罠や魔法仕掛けのガーディアンに襲われる危険もある。
 むろん、危険を避けるのが常道であるが、それができるのならば苦労はないのだ。

 そんな男に冒険者ギルドは、寺院の探索におもむく冒険者の一団を紹介してくれた。途中まで同行させてもらったらどうか、と。
 男としては願ったりであるが、サボテンハンターと見下す冒険者たちからは、自分たちは遺跡の探索を優先するからサボテン狩りは独りでやれ、行きの同行は認めるが帰りは帰りは独りで帰れ、とずいぶんな条件の上、サボテンの花の依頼料の半額を要求された。
 吹っかけられたれたものであったが、どのみち同じ依頼を受ける仲間を募ったら頭数で割ることになるのだ。それに、ことサボテンを相手にしたとき、自分のように動ける者を男は他に知らなかった。


***


 道中、襲いかかってくる"生きた"魔物には、男も後れをとることはなかったが、遺跡を守るゴーレムの類いがどうも苦手であった。
 肉ではない身体を、筋でなく魔法の力で動かす石の番人。
 意思ではなく道理で動くそれを相手取ると、とたんにどう動いたらいいのかわからなくなるのだ。
 さすがサボテンハンター様だな、と嘲笑われるも、男は肩をすくめてやりすごすしかなかった。

 だが、その同行者たちは、もういない。

 探索では危険を避けるのが常道であるはずだが、彫像の守護者を前に、あの先に財宝があるはずと、男が止めるのも聞かずに、わざわざ自ら襲いかかっていったのだ。
 そして、彼らは皆帰らぬ人となった。

 男も這々の体で遺跡をさ迷い、たどり着いた先に、それはいた。

 頭上にひときわ豪奢な花を咲かせる女帝と、それを取り巻くサボテン兵たち。

 取り巻きといえど、街道を彷徨うサボテンとは訳が違うのが見て取れる。
 身が締まり、重い身体が放つ鋭い針。
 それは致命の一針となるであろう。

 いくらサボテンハンターと呼ばれようとも、あれらをまとめて相手取るのは、さきほど守護の彫像に挑みかかった連中よりも無謀であった。

 だが、一匹づつであれば……。
 男は石礫を放ち、口笛を鳴らし、不審がり様子を見に来たサボテン兵を一匹づつ始末していった。
 最後に、護衛役とおぼしきサボテンがどうしても花の女帝から離れなかったため、二匹を相手取ることとなった。
 だが、刃が通り、サボテンどもの動きの予測がつくとなれば、判断を誤りさえしなければ男の勝ちは揺るがない。男はサボテンハンターなのだ。

 男は女帝から刈り取った大輪を慎重に水のクリスタルを備えた植物採集器に収めた。この高価な容器に収めておけば、砂都に着くまでに枯れることもないだろう。
 あとは、遺跡を抜け地上に戻り、砂都へ帰りつくだけだ。

 幸い、危険な魔物に出会うことなく遺跡の入り口にたどり着くことができた。

 だが、遺跡の入り口には男が苦手とするゴーレムの類いがたむろしていた。

 どうしたものか……

 採集器に入れてはいるものの、あまり時間を浪費する訳にはいかない。
 だからといって、男一人でゴーレムを相手取るのは苦戦も必至である。

 男が思案していると、地鳴りのような音が聞こえたかと思うと、ソレが遺跡の前に近づいてきた。
 
 轟きのような地響きを立て走り来るソレは、ゴーレムほどの大きさながら、石のゴーレムよりも遙かにエネルギーを身に宿していた。ソレは、立ち塞がるゴーレムをものともせず、その体で蹴散らし、粉砕して、嵐のよう砂塵を撒き散らし、砂漠の彼方へと走り去って行った。

 なんだ、あれは……

 それは、筋肉質としか形容のしようがない体躯の巨大なサボテンダーであった。

 サボテンダーを相手に臆したことなど一度も無い男が腰を抜かし、呆けた顔をさらしていた。

 あれは……、無理だ。

 あれには、男の刃は通らない。
 動きの予測?
 無理だ。
 予測なぞできたものではないし、男が身をかわすよりも速く迫る、巨軀のサボテンに何が出来ると言うのだ。
 かすめた針に切り裂かれ、石よりも重量のあろう体に跳ね飛ばされて、襤褸の肉塊に成り果てるだけであろう。

 どれだけ呆けていたのであろう。
 男はなんとか気を持ち直すと、巨躯のサボテンダーに岩クズとされたゴーレムの亡骸が散らばる街道を歩き、砂都への帰路についた。
 魔法仕掛けの石塊のゴーレムが、いつまた息を吹き返すかわからないのだ。
 

***


 冒険者ギルドに戻り、男はサボテンの花と引き換えに、依頼の金を受け取った。
 合わせて、同行した冒険者たちが遺跡の守護者に敗れたことを告げたため、依頼金はすべて男の総取りとなった。

 十分な金を得て、悠々としているかと言えば、そうではなかった。
 男の頭からは、あの巨軀のサボテンダーが離れなかった。

 ギルドや他の冒険者たちに聞き回ると、どうやら、海の遙か向こうの新大陸に、かようなサボテンダーがいるらしい、という噂が聞くことが出来た。

 新大陸……
 金やロマンを求め、多くの冒険者たちが渡ったと聞く。
 だが、食い扶持さえ稼げればいい、という男にとっては、いくら金になったとしても、それはおかす意味のない危険であった。

 だが……

 男は、その日から憑かれたように剣の技を磨いた。
 武芸だけではない。
 薬の知識、道具の手入れ、糧食の確保の技……
 新大陸に渡るために足りないものを、がむしゃらに求めた。

 石のゴーレムに臆するようでは、あのサボテンダーの眼前に立つことすらかなわない。

 悪鬼のごとく剣を振るうようになった男のことを、サボテンハンターと馬鹿にするものはいなくなった。


***


 あれから幾年が過ぎただろう。

 砂都でも名うての冒険者となった男の手には、新大陸行きの船へ乗船するためのギルドの紹介状があった。
 明日の朝、ベスパーベイへと向かい、そこからラノシアに渡り、新大陸への船にに乗る。
 今夜はウルダハの最後の夜である。

 男はもう、あのとき腰を抜かした男ではなかった。
 サボテンでなくとも、かつて苦戦をしいられたゴーレムであっても敵ではない。
 即座に心核を見抜き、正確な剣捌きでそれを貫く。
 我流とはいえ、研鑽を積んだ男の腕はザナラーン随一と言われるほどの腕前となっていた。

 だが、男に慢心はなかった。
 いまの自分をしても、あの巨躯のサボテンダーと、どれだけ渡り合えるものか。
 期待と不安がないまぜになるも、その心は穏やかである。

 知り合いが開いてくれた、ささやかな送別会の帰り、酔いを覚そうと夜の街を歩いていた。

 空を見上げると月が煌々と輝いている。

 荒野の宝石と称されるウルダハの都が霞むような、見事な銀盤のような月であった。
 今日でウルダハの月も見納めか、などと柄にもなく思う。

 男の目の端を何かがよぎった。

 白く輝く月明かりをうけ、針金細工のように妙にヒョロ長いソレが空を飛んでいた。

 なんだ、あれは……

 ヒョロ長いソレは、人型であるものの、もちろんヒトではなく、巨人の類でもない。

 あれは⋯⋯

 ずっとサボテンを見据えてきた男の目は、アレはサボテンだと告げている。
 ザナラーンのサボテンとも、あの巨躯のサボテンとも異なる、珍妙な針金細工。
 

 男の乾いた笑いが夜の街に響く。


 何がサボテンハンターだ。

 近場のサボテンを狩ってみて少し分かった気になっていただけ。

 世界は広い。

 新大陸だけでなく、まだまだ、男の想像も及ばぬ世界が、そこかしこに広がっているのだろう。

 海の向こうの次は、空の彼方か。
 次の次の目的地まで出立の夜に定まるとは。

 宿へ向かう男の顔には満面の笑みが浮かんでいた


FIN
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